「代々木公園でみちくさ」編  今回の先生/柳生真吾さん プロフィールはこちら
名前その12 カキドオシ
代々木公園でのみちくさも、そろそろ終盤。
雨上がりにちょっとだけ差し込んでいた太陽の光は
だいぶ西にかたむいてきました。
もうじき夕方という時刻、
吉本さんと柳生さんが、しゃがみこんでいます。
 
吉本 ここに、たくさんあるこれ、
これは珍しくないんですか?
きょうはまだ見てないと思うんですけど。
柳生 あ、そうでしたっけ?
これもね、どんどん増えるんですよ。
吉本 クズみたいに?
柳生 まあ、そうですね、
種類はちがいますけど「覆い系」ですね。
吉本 なんでも覆ってしまう「覆い系」。
柳生 うん、これは、
カキドオシっていう名前なんです。
 
カキドオシ
分類/シソ科 カキドオシ属
学名/Glechoma hederacea subsp. grandis
  開期/4〜5月
草丈/5〜25センチ
吉本 え? ごめんなさい、もう一度。
柳生 カキドオシ。
垣根を越えて広がっていくっていう意味で、
「垣通し」っていうんです。
吉本 ああ、垣根を。
柳生 そう、通していっちゃうんです。
横に横に這うように広がって、すごいですよ。
吉本 ほっそりした感じだと思ったんですけど、
そうですか、そういう子なんですね。
柳生 まだこれはここにしかないけど‥‥
あ、いや、こっちにもありますね。
ああ、そこにも。
吉本 ほんとだ。
わ、あっちもずっと‥‥。
柳生 ね。
ざーっと、こうやって
横に横にすごい勢いで‥‥。
ちょっと持ち上げてみますね。
‥‥よいしょ。
ほら。
 
吉本 ほんと、根が横に横に。
柳生 放っておくとね、すっごく増えるんです。
吉本 丸くてこんなにかわいい葉っぱなのに。
柳生 そうですよねえ、
「覆い系」でなければ、
庭に植えたいくらいなんですけどね‥‥。
 
垣根を通して横に広がっていくから、カキドオシ。
丸くてかわいい葉っぱも印象的です。
でも、かわいいからって油断をしてると‥‥。
吉本さんのエッセイがたのしいんです。

次の「みちくさ」は、あさって、大晦日に。
代々木公園編の最終回です。
 
吉本由美さんの「カキドオシ」
 

垣根の下を通り抜けてお隣の庭へ、
はたまた通り1本越えてお向かいのお宅へ、
しゅるしゅると蔓を這わせて延びていくのが、
この草のさだめという。
そんなさだめにばっちりのこの名付け親は
植木屋さんではないだろうか。
垣根の下を通っていくからカキドオシ。
あまりにストレートな表現だ。
日頃気にしていなきゃ浮かばない名だ。
普通の人はこんな小さな葉っぱは目に入らない。
私も柳生さんに教わるまでは、
見たことも気にしたこともない葉っぱだった。

しかし、よおおく見ると、かわいいのである。
丸い、猫のお尻の穴のような形の葉っぱは、
触るとふかふかと細くて柔らかな毛を纏っている。
「よしよし」と可愛がる。
けれど柳生さん「ちょっと見にはかわいいですけど、
これが油断できないんだなあ」と釘を差す。

それで思い出したのは実家の庭だ。
だいぶ前だが"なんとかプミラ"という
観葉植物の鉢を土産に持って帰った。
かわいいじゃないかと父は喜んだ。
その数年後帰ってみると、
庭の塀がびっしりプミラに覆われていた。
鉢から植え替えたらみるみる広がっていったのだと父。
あまりに見事に張り付いているので
切れなくなったと甘いことを言う。
この手の植物は鉢の中では静かにしているが、
いったん土に解放されると止めどがない。
鬱陶しいので私がばりばりと"剥がし"を試みたが、
何せ向こうは命がけだから動じない。
すごい力で張り付いている。
へとへとになり、結局植木屋さんに処理を頼んだ。

うん、そうよね、
いくらかわいくてもこのテの覆い系に油断は禁物なのだ。
ほらほら、ほらほら、ここにもあそこにもいるではないの!

2008-12-29-MON
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