松本人志まじ頭。

第5回 よくやった! ゆるいヤツ

糸井 たとえば、こないだ、ゆるーい練り歯磨き買ったんですよ。
ブラシにつけて早く口に入れないとこぼれるわけ。
それ、消費者だけをやってるお客さんだったら、
「なんとか固くしてくれ!」って投書するよ。
でも、俺はつくる立場にいる人なんで、
「これは“わざと”だな」って思うわけ。
ここまでゆるいのはワザとだなって。

そうすると、気づくわけですよ、
歯磨き粉が固すぎると、歯と歯磨き粉の摩擦が
なくなっちゃうんだよね。
歯を磨くのに理想的なのは、
ただ素のブラシで磨くのを
1日に何回もやることらしいんですよ。
松本 そうらしいですね。
糸井 あとは、口の中をスッキリさせるだとか、
ほかにもいろんな要素があるけど、
そのプライオリティーは2番目、3番目なんですよ。
とにかくよく磨くことが大事なんだと。
そしたら、ゆるくしたおかげで、
ちゃんとよく磨く意味が出せるわけだよ。
そしたら、やっぱりくっつけてくれないと
困るわけじゃない。さんざん会議したろうなと思うわけ。
で、そのゆるさを100万人の人が
「ゆるい歯磨き粉はイヤだ!」って言っても、
俺は「ゆるい歯磨き粉よ、ありがとう!」
って書きたいのよ。
松本 (笑)。
糸井 「よくやった! ゆるいヤツ」。
で、いろんなお客さんが、そうなってきてるんですよ。
やっぱり俺ネットやってよかったことは、
「俺ひとりじゃないんだ」ってわかることが
いっぱい出てきたの。
ただのOLで31歳みたいな人がわかるんですよ。
そしたら、松ちゃんのクリンチも、
ぜったいわかってると思うの。
ただお金使う場所多すぎて、ビデオにはいかないんですよ。
その人たちって、映画も観ないの。
ちゃんとわかってる人たちは、映画館もいかないで、
レンタルビデオ借りてるんですよ。
いちばん目の肥えた人は映画館行かないんです。
テレビにしても、いい時間にテレビ観てる人は……、
夜8時にテレビ観てる人って、俺やっぱりねぇ、
これから仕事で一緒に組もうって人じゃないんですよ。
無理ですよ。

自分でものを発信する側にいて、
今いちばん苦労してる人たちがかたまってる場所に、
確実に届いてることをしたくなるんですよ。
今は人数少なくていいから。
それは、トントンなんですよっていうビデオもそうだし、
“ほぼ日”だって1日に10万のアクセスあるんですよ。
これはある意味で自慢なんだけど、
ある意味ですごい少ないと思う。
松本 あ、そうですかぁ。
糸井 10万って数はテレビの視聴率で言ったら、
1パーセントの1/10ですからね。
そんな数は相手にしてくれないですよ。
テレビは1パーセントが100万人と言われてますから。
でも、そこで観てくれてる人たちが、
次の時代のメインなんだと思うと、
俺はその人たちと遊びたいんだよね。
きっとこのインタビューが出たら、
わかる人からどんどん投書のメールが来ると思うよ。
で、わかってるようでわかってない人たちからも
来ると思うのよ。
「僕は松本人志さんのビデオを買ってもいないんだけど、
 あの気持ちはわかるんだ」と言ってくれる人のほうが、
俺は客なんだと思うんだよぉ。買わない客。
松本 そうなんですよ。
そこでの僕らの戦いがあるんですよねぇ。
糸井 「なにで飯食うねん」って問題になるよね。
松本 そうなんですよ。
で、あの、うーん、そうですねぇ、
「これからのお笑いはどんな子が出てくんねん?」
みたいな話になったときに、僕いっつも言うんですけどね、
きっとお笑いも、そんなに興味ない子が、
なんかのまちがいで、とゆーか、
なにかで笑いをやらなあかんようになった、とゆーか、
そんな状況で出てきたヤツはきっとおもしろいやろう、
って思うんですね。
もう、昔から笑いが好きで好きで、
ずっと見てたっていう子はねぇ……、
たぶんねぇ……無理ですね。
糸井 たぶん、その世界の苦労に
なまじ耐えちゃったりする人がいると、
その人はそこまでですよね。
だって、べつに松本人志は苦労してきたって気
しないでしょ、つらいことはあるだろうけど。
松本 そうなんですよぉ。
糸井 どこのジャンルにね、今が吸い込まれているのか
っていうのを、今まではいつもわかったのよ。
今がいちばんわからないの。
どこのジャンルに優秀なヤツがいるのかって、
俺には今わからないのよ。
たとえば、はっきりわかることがいくつかあって、
昔だったら法務省に行ったヤツ、つまり東大法科から、
裁判官になったり、弁護士になったり、
官僚になったりするヤツが、実は今、民間に入ってるのよ。
これはすごくよくわかるの。
昔だったら官僚になってるだろうな、っていうタイプの
頭のよさの子が、いい会社にぜんぶいるんですよ。
昔の会議って退屈だったんだけど、
今の会議って、けっこう戦場なんですよ。
よく例に出すんだけど、俺が電通で会議するでしょ、
10人の会議だと、昔はちゃんとしゃべってる人が
1人しかいないのよ。
あとの9人はホントは早く会議をやめたいんですよ。
松本 (笑)うん。
糸井 でね、この10年でね、
しゃべる人がまず2人になっていったのよ。
さらに3人になり、4人になり、
ついに10人が10人重要だって会議が最近あるのよ。
で、終盤までこいつはダメかもしれないと思ってた人が、
最後に「ウチの近所のパン屋でね……」とか、
言い出したりするのが、
「重要じゃん、それ!」ってことがあるんですよ。
松本 (笑)。
糸井 俺らが1匹狼を気どって、「俺に任せておけば大丈夫!」
って時代じゃないことを、ヒシヒシと感じるのよ。
要するに、天才的じゃなくったって、
ここまでわかられちゃったら、
そのチームは同じ物つくれるなって思うのよ。
そうなると、そのなかに天才が加わったチームしか、
本当の仕事はできないなと思うのよ。

今外資系の代理店と組んでるんだけど、それがまたすごい。
10人が15人分くらい働くのよ。
で、アメリカにいたらプールつきの豪邸に住むよ、
というトップの人が日本支社の社長になって、
ホントにガツガツ働いてるの。
それ見るとね、日本人サボってるわ、あきらかに。

極端に言うと、その人ってナイキの社長と
タメで仕事の話できるやつですよ。
で、アメリカにチームもなにもかもぜんぶあるのに、
なんで家族連れて日本に引っ越してきたのっていう、
そこが不思議なんだよ。

さっき話した、ミスタードーナツなものがあるわけですよ。
で、ホントに大事な仕事になったら、
本社からピックアップメンバーをぜんぶ呼ぶ。
その会社、営業いないのよ。マーケティングも
クリエイティブも市場調査もぜんぶ自分でやるの。
で、こういう調査はするべきだという会議をして、
どんどん仕事つくっていくんだよね。
そうするとメチャクチャに忙しくなるでしょ。
俺と同じ歳くらいのトップがガタイもよくてさ、
「キミたち、眠いかぁ?」なんてスタッフに言ってるの、
そいつはもっと眠いはずなんだよ。
それがバリバリに仕事してるんだよ。

いざクライアントに対しての
プレゼンテーションのときには、
アムステルダムから1人、ポートランドから2人
っていうようにチームが飛んでくるの。
で、プレゼンテーションが終わって、
クライアントも英語のわかる人たちで、
「このチームで日本に残る人はだれですか?」
ってきいたときに、みんなが手を挙げるんだよ。
チームのエースが日本に残ることがわかるから、
仕事とれるよね。そーいう時代よ。

芸人さんたちが、個人のカブるカブらないだのと言って、
個人の貯金を使い果たしながら生きてるのにくらべたら、
「いいもん、俺がアイデア出なかったらこいつがいるもん」
みたいなことやられちゃったら、やられるよねぇ。
松本 うーん、そうですね。

2000-01-04-TUE

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