松本人志まじ頭。

第2回 追いつめられていないから

糸井 思い出したんだけど、俺、松ちゃんの歳に下宿借りたのよ。
4畳半の。
松本 気持ちはすっごいわかります。
糸井 原宿に事務所があって、代々木上原に借りたのかな。
共同便所、流しだけあったかなぁ、
そこに本棚だけ置いて、電気ポット置いて。
「イトイさん、事務所にいない」っていうときは、
そこにいることになってる場所をつくろうとしたのよ。
で、絶対にフツーのボロアパートじゃなきゃダメなの。
で、結局行かなかった。
あの……行けるほど、余裕がなかった。
あれはできないといけなかった気がしますねぇ。
で、大人になってから今度は、
今やってるインターネットもそうなんだけど、
これぜんぶ赤字なんですよ。
で、僕が何行書こうがタダなんですよ。
だからいちばん使いやすいタレントって俺なんですよ。
松本 そうですね。
糸井 だから、始めましたって言ったときに、
原稿がひとつもなくても俺が書けばいいと思ったんで、
始めたんだけど、ちょっとユニセフなものがあるのよ。
でも、おもしろい。
あの、これやってる間、もうちょっと真剣に営業して、
本職だけやってたほうが食えるんですよ、きっと。
今の時代はまだ。

だけど、それよりも、ゼロから育っていくものを
もう1回やってみたかったという気分なんです。
それを何で覚えたかというと“釣り”なんですよ。
釣りって、ぜんぶひとりでやらなきゃならないの。
だから、バス釣りのトーナメントに出るときも、
そのへんの大学生の兄ちゃんと受付の順番並んで、
番号札もらって……。
で、1時に戻ってこなきゃいけないルールのときに、
1秒でも遅れたら失格ですよ。
で、試合だから、いい場所に入ってる人がいれば、
俺が行ったからってどいてくれる人なんていないよねぇ。
ボートが風で流されそうなときは、
どうやっておさえてようかみたいなことを
ぜんぶ自分でやって……。
松本 (笑)あーそうですね、僕らもうそんなん
あんまりないですからね。
そんなことを気にせないかんことがね。
糸井 そうなんですよ。
で、バストーナメントに出てたとき、
ひとつだけズルしてたのが、
前の晩はホテルに泊まって参加してたの。
これだけはズルさせてもらったの。
つまり、前の日まで働いてるから、俺。
ほかの兄ちゃんたちはもうちょっと楽なのよ。
そこだけは、いいホテルで、温泉につかって、
朝5時だか6時の集合に間に合うようにして。
それでね、試合では見事に負けるのよ。
最高で8位なんだけど、涙出るほどうれしかった。
松本 (笑)いや、それはそうですよ、ぜったい。
糸井 テレビでマラソンの中継とか見てて、
8位の選手なんて相手にしてないじゃない。
けど、自分が田舎の釣り大会でとった8位って、
ものすごくうれしいんですよ(笑)。
自慢したねぇ。
だから、俺の気分でユニセフだったり、
ミスタードーナツだったりすることを、
やれることでやったのが釣りなんじゃないかな。
松本 ま、本当のこと言って僕は、催眠術みたいなものを
かけるのかどうなのか……、
本当にドーナツを好きになればねぇ、
バイトできるはずなんですよ(笑)。
それが、ドーナツ好きじゃないくせに、
どこか遊びとしてやってしまおうとしてる自分に、
ちょっと引いてしまってて、
追いつめられてないからダメなんですよね、きっと。
で、ホントにアパートに住むしかない状況になれば、
それはやらざるを得んことでやるんでしょうけど。
どこかで遊びでやろうとしてるから、
その自分に対して、ちょっと引いてるんですね。
糸井 あーそうだなぁ、
本当には追いつめられてないってのは、大きいねぇ。
いや〜きっとねぇ、
1000円札の意味がかわると思うんだよねぇ。
松本 かわるんですよぉ。
糸井 その1000円札が見たいよね。
そーれなんだよなぁ。
ところで、時間、大丈夫ですか?
だいたいケツ決めときましょうか。
松本 8時にしましょうか。
糸井 オッケー。
じゃ、いい? もっと笑いの話して?
ぜひ聞きたかったのよ。
松本 ええ。
糸井 松本さんって、
笑えないことばっかりを、どう笑いにするか、
っていうのばっかり追求してるじゃないですか。
松本 はいはい、そうですねぇ。
糸井 だから、俺はどんな人にも
「松本人志の笑いっていうのは、
ちゃんとわからないとダメですよ」
って言い張ってるんだけど。
こないだは俺、吉本隆明さんに言ったんだけど、
「ビジュアルバム」だっけ、あのビデオをあげたんです。
「糸井さんに言われてから観たら、たしかにそうだ」って
吉本さんが言うわけですよ。
で、言われないと結局、本とテレビ番組だけに
なっちゃうんで、見えないらしいんですよね。
で、まあ、名前は出したくないけど、
まったくわかってない人もいますよね。
松本 ふーむ……。
糸井 いまだに“チンピラの立ち話”っていうまとめかたで
済ませちゃってるわけ。
でもね、立川談志さんは認めてる。
松本 (笑)いや、なんか聞きましたよ。
糸井 あの人はね、はっきりわかってる。
現場踏んでる人なのかな、って気がした。
つまり、現場の苦労をしらない人には、
笑わないかもしれないものを書けるってことの
恐ろしさはわからないんじゃないかなぁ。
俺もお笑いじゃないけど、ウケなかったときに
仕事なくなるって恐ろしさ知ってるから、
いちいちおもしろいわけですよ(笑)。
松本 (笑)。
糸井 特にこのところの“山崎もの”なんて、こわいよねぇ。
松本 (笑)うん。
糸井 で、チェックしてるわけよ俺。そのこわさがあるから。
すると数字も下がるわけよ。こわいものやったときって。
で、やっぱりなぁと思う反面、
じゃあどこまで落ちたんだろうってのが見たいのよ。
松本 そーうですね。
糸井 あれさぁ、“山崎もの”は思いつくわけ?
松本 それは、なんなんでしょうねぇ……。
あんまり意識して考えたことはないんですよ、実は。
糸井 じゃあものすごくウケるネタってのも
「ウケるぞ」って意識してるわけじゃないんだ?
松本 うーーーーん、ときどき、あるかなぁ。
でもそんなに意識してないですねぇ。
いや、僕ね、ホントに意外と意識してないんですよぉ。
で、ビデオのコントでも、自分で観たらすごい
悲惨やったりする、と、ぜんぶ。
救われなかったり。
最終的にぜんぜんハッピーエンドじゃないし。
で、それは計算してやってるのかなっていうと、
どっかで計算してるのかもしれないんですけど、
意外と計算してなくて、結局そうなってたし。
それが好きなんでしょうねぇ。
……だから、ちょっとわからないですねぇ。
糸井 うーん、だけど、ぜんぶギリギリだよねぇ。
松本 ギリギリですねぇ。
糸井 で、2度観たらおもしろくなったものすらあるよねぇ。
だからビデオと松本人志って、ものすごく合ってますよね。
松本 うん。実はそうなんですよ。

2000-01-01-SAT

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