第5回
ヒゲの金子先生。
- ──
- 佐藤さんは、津南のお生まれなんですか。
- 佐藤
- いや、三条。ジャイアント馬場。
- ──
- あ、そうですよね(笑)。新潟県三条市。
- 佐藤
- 三条で生まれて、三条で育ちました。
俺が4年生か5年生くらいのときに、
ジャニーズの人たちが
DASH村やってた福島県の双葉町で、
スズキくんという高校生が‥‥。
- ──
- フタバスズキリュウ?
- 佐藤
- そう、首長竜の化石を偶然発見して、
大ニュースになった。
ようするに、俺の出発点、そこなの。
- ──
- はー、縄文の世界へ進むきっかけは、
フタバスズキリュウでしたか。
でも、当時たくさんいたんでしょうね。
佐藤さんみたいな考古学少年。
- 佐藤
- いっぱいいたよ。
当時、工事現場から遺跡が出てきたら、
好き者の先生に連れてってもらって、
そこから、いろんなものが、
グッチャグッチャ出てきて感動してね。
- ──
- ええ、ええ。
- 佐藤
- ま、今から思えば「盗掘」なんだけど。
- ──
- あ。
- 佐藤
- 当時、考古学好きな同年代のやつらに
図書館でよく会うんで、そいつら、
三条にある各中学校の考古学好きを、
学校横断でひとまとめにして、
「三条ジュニア考古学クラブ」
って、考古学の集まりをつくったの。
- ──
- えっと、それは、佐藤さんが?
- 佐藤
- そう。で、高校の考古学クラブの人に、
「おまえらのやっていることは盗掘だ、
そうじゃなくて、
遺跡は保護するという考えに変えろ」
とか怒られて、いろいろ勉強して。
- ──
- 考古学好きの中学生が集まって。
- 佐藤
- 公民館を借りて、ガリ版刷ったりして、
新聞つくって出したりしてたなあ。
高校生になったら、
「クラブ」を「研究会」に格上げして、
三条って金物の町だから、
徒党を組んでザル屋でアルバイトして、
実家の敷地にプレハブ建てて。
- ──
- 研究所まで建設!
- 佐藤
- 放課後になると、そのプレハブ研究所に、
まるでソロバン学校みたいに、
自転車が30台くらい、ワーッと並ぶの。
テストをつくってみんなで解いたりして、
楽しくやってたんですよ。
- ──
- ちなみにお伺いしますが、
そのクラブには、女の子はいたんですか?
- 佐藤
- いないんだ、これが。ゼロ。
俺のまわり、ずっと女性がいないんです。
大学の恩師の小林達雄先生にも、
おまえはそこが駄目だって言われてます。
- ──
- あ、そうでしたか‥‥(笑)。
ちなみに、津南町との関わりはいつから?
- 佐藤
- 中学生のころに、
考古学関係の古い資料を眺めているとね、
どれも「津南町」と書いてある。
そこで津南ってすごいと思ったのが最初。
それで当時、みんなでこぞって、
お金をためて、津南の遺跡を見に来たり。
- ──
- へえー‥‥。
- 佐藤
- 当時はまだまだガキだし、
黄色と黒の虎の子のテープの張ってある
立ち入り禁止の遺跡に忍び込んだら、
向こうからヒゲ面の先生が来て
「おめぇら中学生なんか、
こんなところへ来るもんじゃねぇぞ!」
って、ガンガンに怒られて。
- ──
- なんと。
- 佐藤
- ショボンとして三条へ帰ってきたりね。
1週間後、また、性懲りもなく、
また違う町の発掘現場に行ってみたら、
そこも虎の子テープを張ってて、
立ち入り禁止をくぐって入ってったら、
向こうから、またヒゲ面が‥‥。
- ──
- うわあ!
- 佐藤
- やばい、また怒られると思ったら、
こんどのヒゲの先生には
「よう来た、よう来た」と褒められた。
- ──
- あ、別のヒゲの先生でしたか。
- 佐藤
- そう、二回目のヒゲの先生は、
「おまえら、遠くのほうからよう来た」
と言って褒めてくれたんです。
現場で5千年前の火焔土器のかけらを、
パッと拾って見せてくれたりして、
そのたびに、
まわりにいた発掘作業の大学生が
「おおー!」ってどよめいたりしてね。
- ──
- どよめく?
- 佐藤
- つまり、発掘現場で出土してきたものは、
そのまんま残して記録を取るまで、
むやみに持ち上げたりできないんですよ。
とくに考古学の学生なんか、
ひっくり返して見たいの我慢してるのに。
- ──
- 勝手に発掘現場に入ってきた中学生に、
先に見られちゃったんだ(笑)。
- 佐藤
- それでね、興味津々の俺たちに向かって、
そのヒゲの金子先生は、
「いいか、おまえら、これが、
5千年前の縄文人の土器なんだぞ」と。
で、帰り際には
これでみんなでラーメンでも食べれって、
2千円、くれたりしたんだ。
- ──
- 当時の2千円って‥‥。
- 佐藤
- でっけぇんだと思うよ。
ま、そんなきっかけで、
中学のころは、
そのヒゲ面の金子拓男先生のところへ、
よく出入りしてたんです。
- ──
- では、そんな感じで、
考古学が大好きなまま、大学まで進んで。
- 佐藤
- いやあ、三条ってのは商人の町だし、
親は考古学なんかはまんま食えねえって、
地元のちいせえ大学の経済学部にね。
でも、やっぱりおもしろくねぇわけでさ、
親の目を盗んじゃあ、
長岡の発掘の現場に通いつめてましたね。
- ──
- ああ、そうなんですか。
- 佐藤
- 結局、大学は辞めちゃって、
発掘現場でアルバイトしてたんですけど、
現場のトップの人の書いた報告書に
意見を言えって言われて、
もっとこうしてこうしたらって言ったら、
「生意気言うな」って怒られてね。
おめえさんが言えって言ったから
俺は自分の意見を言っただけですけどね、
って言ったら、ぶん殴られた。
- ──
- お、おお。
- 佐藤
- でね、俺もまだ、若かったんだなあ。
そのトップの人を殴り返しちゃって、
コロコロコロってなっちゃったあとに、
「おめぇなんかクビだ!」って。
- ──
- わあ。
- 佐藤
- 俺だって気分よくねぇからさ、
「いいよいいよ」って言って辞めたの。
そしたらさ、新潟県庁から
「佐藤くん、県庁で雇うから来なさい」
って、連絡が来たんですよ。
- ──
- へえ。
- 佐藤
- そんなこんなで、
新潟県教育委員会の埋蔵文化財組織に
嘱託で入れてもらったんだけど、
つまりね、ようするに、
クビになった俺をひろってくれたのが、
あの金子拓男先生だったの。
- ──
- ヒゲ面の!
- 佐藤
- そう。
2019-02-10-SUN