第4回
現代人の目線、縄文人の目線。
- ──
- ここ「なじょもん」にある土器って、
どれも本物なんですか。
- 佐藤
- うちにニセモノは置いてないですよ。
大英博物館の日本展示館のね、
訪れる人が
「日本という国の歴史を知りたい」
と言って入っていく館の入り口に
展示されている土器も、
うちの、つまり津南町の火焔型土器。
- ──
- 火焔型土器というと、
縄文土器といえば、みたいな感じで
イメージされますが、
このあたりが、発祥の地なんですか。
- 佐藤
- あのかたちが定まったのは、越後。
そこは、間違いないです。
今、俺たちがいろいろ調べてるのは、
定まるまでに、
どのようなプロセスを経てきたのか、
そこのところ。
- ──
- 成立した年代が、約5千年前?
- 佐藤
- そう。
- ──
- 見れば見るほど、
火焔型土器ってすごい造作ですね。
本当に、これで
実際に煮炊きをしていたのかって、
疑ってしまうほど。
- 佐藤
- 鍋釜と同じものですよ。
- ──
- 使いにくくなかったのでしょうか。
- 佐藤
- もちろんね、ふつうに考えりゃあ、
こんなふうに着飾る土器は、
やっぱり、ある種の儀式やお祭り‥‥
当時の人間が自然と深く関わる、
何らかのタイミングで、
精霊のような見えない存在と交信する、
そのための儀器であった‥‥
そういう可能性は高いと思うんですよ。
- ──
- 不思議なかたちしてますもんね。
- 佐藤
- で、その「不思議さ」にくらべると、
次の時代の弥生土器は、
スタイリッシュな‥‥ようするに、
不必要な装飾をすべて削ぎ落として、
機能に特化していったわけ。
- ──
- ええ。
- 佐藤
- 縄文土器って、お尻がちいさくて、
頭でっかちで、
からだ全体が装飾にあふれていて、
いかにも使い勝手が悪い。
- ──
- 倒れそうです。
- 佐藤
- でも、その「使い勝手の悪さ」には、
俺ら「文明人」が感じることとは、
別の意味があるだろうってことでね。
- ──
- なるほど。
- 佐藤
- 岡本太郎さんもおっしゃってるけど、
縄文土器という存在そのものから、
ブワーッと、ムラムラ、ウズウズと、
縄文人たちの精神が、
湧き出てくるように感じるじゃない。
これでもか、これでもか‥‥って。
- ──
- 世界を見た場合、同じような時代に、
同じような器っていうのは‥‥。
- 佐藤
- ないでしょうねえ。
ここまで、ヘンなかたちの器なんて。
- ──
- でも、日本の縄文時代は、
みんなこぞって、この使い難い器を
使ってたんですよね‥‥。
- 佐藤
- 縄文土器には、
さっきお話した「鶏頭冠状突起」が、
一定の方向を向いている、
ランダムな方向を向いてないという
規則性があって、
そのルールは基本的には守られてる。
ぼくらは、器形‥‥プロポーション、
フォームという意味で、
器の形、キケイと呼んでますけど、
そこに時間的な変化はほぼないです。
- ──
- なるほど。
- 佐藤
- 細かい部分の流行り廃りはあるけど。
ブームというかな。
- ──
- ブーム。縄文時代のブームの期間て、
どれくらいなんですか。
- 佐藤
- 500年くらいか?
- ──
- 1ブーム500年。すごい(笑)。
- 佐藤
- ところがね、
そこにくっついてる装飾に関しては、
年代によって、
造形や描き方が変わってくるんです。
さらには、地域によっても、
多少の造形の違いなどが出てきます。
たとえば東北では、おおよそ、
土器の器面を4分割しているんです。
- ──
- 突起を含めたデザインのパターンが
ひとつの土器につき、
4ユニットくっついてるのが、東北。
- 佐藤
- でも中部高地、長野あたりへ行くと、
器面を3とか5で割るわけ。
- ──
- へぇ、奇数で。
- 佐藤
- 地域集団の間で、デザインの違いや、
器風の違いみたいなのがあって、
そこにもきっと、
地域に根ざした理由があるのかなと。
やってみりゃわかると思うんですが、
5で割るって難しいんです。
- ──
- ですよね、4とかよりは圧倒的に。
- 佐藤
- そのあたりも探っていくと、
きっと、いろいろおもしろいと思う。
それに、縄文土器っていうと、
現代人は「真横」から見るでしょう。
- ──
- 鑑賞する場合には、そうですね。
- 佐藤
- 展覧会なんかでも、
俺ら現代人の目線に合わせる高さで
土器を展示してるんだけど、
それって、
縄文人の目線とは、ちがいますよね。
- ──
- えっと、つまり‥‥。
- 佐藤
- ようするに、煮炊きの道具なんで、
縄文人たちは、
地べたにあぐらをかいた状態で、
土器の斜め上から、
見下ろすように見ていたはずです。
- ──
- ああ、なるほど。真横から見てない。
鑑賞と実用の、目線の違い。
- 佐藤
- 些細に思えるかもしれないけど、
そこは、大事なところだと思います。
縄文土器、火焔型土器の文様や造作は、
実際に煮炊きするときに、
意味を持ってくるものだったろうと。
- ──
- あー‥‥。
- 佐藤
- さらに言えば、
当時の竪穴式住居のなかというのは、
うす暗いわけ。
- ──
- つまり、縄文土器のかたちや文様は、
そういう光量の場所で、
斜め上あたりから眺められたときに、
何かを感じさせるものだと‥‥。
- 佐藤
- そうそう。そんな感じ。
- ──
- 縄文の人たちの思いや心を知るには、
そういった環境に
実際に置いて感じることも重要だと。
- 佐藤
- そう思います。
だって当時の人々が土器を見る目線、
明らかに、
俺たちが見ている目線とは違うから。
2019-02-09-SAT