ほぼ日刊イトイ新聞
縄文人の思い。~津南の佐藤雅一さんに訊く、縄文と今と未来がつながるところ~

新潟県津南町にある縄文文化の体験施設
「なじょもん」の佐藤雅一さんは、
縄文人の「思い」に、思いを馳せます。
彼らは、どんなことを考えて、
燃えるような火焔土器をつくっていたのか。
そこに込められた意味や思いに、
どうにか接近しようと、試みています。
縄文時代と現代は、つながっている。
それは未来にも、通じている。
佐藤さんの話を、たっぷりうかがいました。
担当は「ほぼ日」奥野です。
全7回の連載として、お届けいたします。

佐藤雅一さんプロフィール

第3回
津南の郷土史家でありたい。

──
佐藤さんは、もう何十年もずっと、
縄文のことをやってきたと思うんですが、
縄文時代って、
どういうところが、おもしろいですか。
佐藤
大袈裟に言うと、ロマンがあるんですよ。

ぼく自身、
まだ小学生のときに縄文土器と出会って、
そのときに興味を持ったのは、
もっと大きい「自然」ということでした。
──
縄文を育んだ、自然?
佐藤
縄文だけじゃなくて、現代も同じでさ。

つまり、もっと大きな‥‥そうだなあ、
自然と人間に、俺は興味があるんです。
──
佐藤さんのベースは考古学、ですか。
佐藤
うん。でも、意識してるのは郷土学。

考古学に特化するのは
中央の学者さんに任せれば十分だし、
自分はもっと裾野を広げて、
津南の郷土や歴史に関わりたいし、
この津南という土地の
語り部をやっていけたらいいと思う。
──
津南の郷土史家でありたい、と。
佐藤
現代は、考古学もパソコンの時代で、
見渡せる範囲が、
ものすごく広く、大きくなってます。

瞬時に情報が拾えるし、
アラスカだシベリアだモンゴルだと、
行ったこともないエリアとの関連も
出てきてるんだけど、
若い連中はともかく、
俺みたいな、こんな片田舎にいたら、
シベリアの話なんてできっこないよ。
──
そうですか?
佐藤
できないよ。それよりも俺は、
この雪ん中で、郷土史家になりたい。

津南町の歴史をちゃんと語りたいし、
津南町を
日本の国土と歴史の中に、
きちんと位置付けたいって思ってる。
──
最近、自分の生まれた地域のことを
知りたいって欲求が、
いまさら、すごく出てきたんですよ。
佐藤
どちら?
──
群馬県です。
佐藤
群馬のどこ?
──
桐生の隣のみどり市っていう‥‥。
佐藤
あのあたりに博物館あるよねえ。
──
え、はい、コノドント館ですかね?
佐藤
あの角の、古い郵便局かなんかの。
──
そうです。昔の銀行の建物です。

でも、すごい。
人口2万に満たない地方の町の、
ちっちゃな博物館をご存知とは。
佐藤
桐生には縄文時代の終わりごろに、
すごい技術集団がいたんだよね。
──
え、そうなんですか?
佐藤
高度な技術で土を彫り込んで焼いて、
ピアス‥‥
透かし彫りの耳飾りをつくってた。

ちゃんとベンガラで塗ってね、
耳飾りで、
日本一素晴らしいのは桐生だと思う。
──
へえ!
佐藤
千網谷戸っていう遺跡。
──
ぜんぜん知らなかったくせに、
急に誇らしい気分になってきました。

まったくのいいわけですが、
あのへんで遺跡といえば岩宿なので。
佐藤
ああ、相沢忠洋さんのね。
──
佐藤さんは、縄文の人たちって、
どういう話をしていたと思いますか。
佐藤
会話? 同じだと思うけど、俺らと。
思考なんて、だいたい一緒じゃない。

つまり、男はだいたい怠け者で、
女の人のほうが、
朝から晩まで、はたらいてたと思う。
──
なるほど。
佐藤
それで、男はたまーに格好をつけて、
「ようし、獲物を獲ってくる!」
とか言いつつ、
みちみちスケベな話しながら行って、
真面目な顔して
「大事な会議だ」とか言ってても、
木陰で馬鹿な話をしてたんじゃない?
──
あー、ははは‥‥。
佐藤
ただ、自分たちの領域が侵されたり、
そういう場面では、
男が率先して
出ていったりはしたんだろうけどね。
──
佐藤さんには、そのあたりの、
「縄文人と現代人は、基本的に同じ」
という考え方がベースにあるから、
縄文人の「思い」も、
いつか、どうにか、わかるはずだと。
佐藤
土器をつくっているときに歌う
「土器づくりの歌」とかも、
たぶん、あったと思うんですよ。
──
縄文土器のワーク・ソング。
佐藤
あったと思いますよ、
歌っているうちに、できるようなの。

それも、
ただリズムをとるだけものじゃなく、
歌に、作業工程的な記号が
埋め込まれていたら、
縄文土器のつくりを統一することは、
比較的、容易だったろうと。
──
つまり、歌に、設計図が入ってる。
佐藤
で、5千年くらい前の縄文土器には、
そういう雰囲気を感じるんです。

その前と後を比較してみると、
土器の文様体系がけっこうちがうの。
──
そこに「意味」や「思い」が‥‥。
佐藤
込められはじめたのかしれない。

正しいかどうかはわかりませんけど、
そう思うとワクワクするでしょ。
──
はい、します。
佐藤
で、そういうことを調べながらも、
でも、やっぱり俺は、この津南町で、
人間と自然とが、
共生なり共鳴なりしながら生きてく、
そういう生き方を、
子どもたちに伝えていきたいんです。
──
やっぱり「郷土」に戻るんですね。
佐藤
俺の場合はさ、縄文が好きだからね、
縄文っていう言葉に
みんな置き換えているんだけど、
やっぱり、
縄文が現代を照らし返してる部分に、
取り組んでいけたらと思う。
──
そう思うと、縄文って、
すごく大きなものを含んでいる‥‥。
佐藤
俺にとってはね。そうですねえ。
<つづきます>

2019-02-08-FRI