荒俣宏、インターネット荒野への旅

(雑誌『編集会議』の連載対談まるごと版)

第9回 虚業が、21世紀の実業になるのかな。


(※前回の、ほんとうに完璧な
  完成品を作る必要がなくなってきた、
  という話をきっかけに、今回の話に移ります)

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荒俣 今はもう、
ほんとうの完成品を発売する必要が
あまりなくなってきたとも言えますよね。
糸井 うん。
荒俣 ぼくたちもそうでしたけども、
若い頃には、人を驚かしたくて
ガチガチにがんばった装丁とか
400ページくらい書いたりいろいろしていて・・・
よく考えたら、1行ですむのにね。
あれはやっぱり無駄だったのかなあ(笑)。
糸井 ふふふ。
まあ、その時はその時で、
恋愛がなければ結婚がないのと同じように
センスにも「青春」が
必要だったんじゃないかなあ。

自分をふりかえっても、
ガチガチにやっていた時のことは
それはそれでほんとによかったと思うし、
今の若い人も、それに似たようなことを
やっていると思うんです。
だけど、そいつらも、どっかで気づくというか。
荒俣 なるほど。
糸井 だから完全を目指したい人は
それでいいと思うし。
だいたい、インターネットに関しても、
ぼくはすべての人にはオススメしてないです。
ただ「使えるよ」と言っているだけで・・・。
要するに、ぜんぶの時間をムダなく
使えてしまうのだから、全員には薦めないです。
「やんないならそれで構わないと思うけど、
 やっていいこともいっぱいあるよ。
 ・・・でも、いっそがしいよ〜〜っ」
いう感じで。
荒俣 確かに忙しいですすよね。
ただ、24時間体制でやっているところの
ほとんどが、ただ忙しがっているだけという
気もするんですよ。
糸井 ネットにずっとつながることは、
自分ではコントロールできない
妙なおもしろさがあるから、
思いきってその濁流のような中に
ふみこんでいくんだけども、
濁流には濁流なりの
力の抜き方があるんでしょうね。
荒俣 それも微妙で、
下手に流れに逆らうと死んじゃうけど、
流れに則してずっと動いていけばけっこう楽しくて
それなりのおもしろさがあると思います。
パーツを使うってことは、
そういうことじゃないですかね。
24時間体制で人格で勝負するのは、無理だから。
糸井 異性にたとえると、
誠心誠意の恋愛をしようとしたら、
ひとりに1日でさえ、できやしない。
だけども、パーツをつなげれば
愛情が成りたつというか・・・。
荒俣 それ、大きいですね。ぼくは、
女性にしても男性にしても、
「おともだち」という形態が非常に好きで。
糸井 ぼくも「おともだち」好きですね。
荒俣 恋人という関係を持つと、
忠誠を誓わなきゃいけないじゃないですか。
ともだちの場合なら、いいかげんにでも
顔をあわせればああ友達って言える。
おともだちって何十人も作れますから。
糸井 お友達って、じゃあ「リンク」ですね。
荒俣 まさに、そうですよ。
糸井 別の世界を持っていて、
おたがいが王様どうしでいられて。
荒俣 恋人っていうと、そこで終わりなんですよね。
つまり、人格を所有しなきゃいけないですから。
・・・これは重いですよ。

一方で、おともだちだと
リンクが次々とできていく。
お友達は10人持てるけれども、
愛人を10人持っていたら大変ですよ、そりゃ。
糸井 大変ですし、破産します。
荒俣 今までの知の形体って、よく考えると、
愛人を10人持とうとしていたところがあって。
20世紀に脱構築の動きなどの起きてきたのは、
それの大きな象徴だと思いますね。
糸井 そうですよね。
だけど、商売になるのは、
脱構築の前の段階しかないんです。
ぼくは、できればそこに、
自分の後半の人生をかけてみたいなあというか。

つまり商品の形が変わってきていて、
半端な製品や、単なるホラでしかないものが、
実は次の時代の商品だと証明してみたいんです。
荒俣 なるほど。
情報化時代だとかいうのは、
商品としてはまさに今言ったような、
実態がなくてウソかホントかわからない、
お腹がふくれるわけではない商品を
売るということですからね。
それをどう売るかが課題ですから。

やっぱり一番大事だとぼくが思うのは、、
そういう中途半端な製品や、
うそかほんとかわからない商品というのは
高級品ではないというところです。
圧倒的に「量」があるから、
10万個でもストックできるんですよ。

虚業と言われていたようなものが
21世紀からの実業になるかもしれないですね。
糸井 それはほんとにそうですよー。
7、8年前の年賀状で、ぼくは
「夜空の満天の星をつなぎあわせて
 ヒシャクだの熊だのを見出した古人達の仕事が
 我々の仕事である」と言っていて。。

あれは商品ですからね。
動物占いとかも、あれを考えたことで
それが無数に配られて、
しかも商品でも通ったわけですよね。
そういうものが流通される可能性が
これからはどんどん出ますよね。

・・・あ、ぼくはよく聞かれるけど、
荒俣さんも、インパクを、
どうして引き受けたのって、言われるでしょう?
荒俣 言われますね。
何て説明しています?
糸井 税金を払うようなものだ、と。
荒俣 ぼくもおなじで、
これはもうしょうがない。
ひとつの運命だと思って
あきらめるしかないなあというか。

ただ、糸井さんも
実はそう感じていると思いますが、
誰かが1回、先に飛び降りないとだめなんですよ。
これ。ええ。お国がやってるからなんか嫌だし、
結局、実際に飛ぶのは我々になるのですけど、
それをまずは見せないと、たぶん
誰も飛びこんでこないような気がしたんです。

だからぼくは、捨石というか。
だから、動機は税金払いですよ。完全に。
糸井 税金ですよね。
荒俣 だって、我々は、やっていて
何のメリットもないですもん・・・。
糸井 敢えて言えば、インパクがあるから
荒俣さんとこういう話ができて、
その時間は漠然とおもしろくすごせるというか。
荒俣 (笑)うん。

(次回に、つづきます)

インパクはこちら。

2001-01-09-TUE

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