80's
『豆炭とパソコン』のひとり旅。

第22回

1回目のインタビューを終え、
今の段階で本の構成をどうしようかと悩んでいても
どうやら無駄らしい、と考え始めていた私の元に、
1通のハガキが舞い込みました。
それは、ミーちゃんからの「展示会」の案内状でした。
シュガークラフト、パッチワーク、染め物の各作品を
ミーちゃん宅のお隣のドイツ菓子屋さんで
展示しますとの案内が印刷されたハガキの隅に、
ボールペンの手書きで
「5/5ですと、水源地のツツジが見られます」
と書かれています。
もう一度ミーちゃんに会えば
悩みは解消するに違いないと思い至り、
早速私は前橋のミーちゃんのお宅に向かいました。
ゴールデンウィークも終盤の、こどもの日でした。

「まあ、遠いところをようこそ!」
初めてお邪魔したときと同じ笑顔が、そこにありました。
「80代〜」連載を読んだ方ならご承知のように、
ミーちゃんの家は、お友達のハツミさんが経営する
ドイツ菓子屋さんとパテオを挟んで並んでいます。
そのハツミさんのお店を展示会場にして、
中には、ハツミさんが作った美しい砂糖細工や、
ミーちゃんの娘であるノリコさんが染めた布もの、
そしてイシノさんのパッチワーク作品などが
きれいに飾られていました。
「午前中は人がいっぱいだったんですよ。
 ちょうど人が切れたときに
 来ていただいて、よかったわぁ」
なんて言いながら、ミーちゃんは早速説明を開始します。

「これはハツミさんの作品なんですけどね、
 お砂糖を固めて作ってあるんですよ。素敵でしょう。
 細かいのよ、これが。
 それからこれはね、イシノさんが作ったパッチワーク。
 今日はイシノさん来てないんですけどね、
 いたら私より、
 もっといろいろ説明できるんですけどね」
私はミーちゃんの解説を聞きながら
「ステキですねぇ!」と頷きます。
「それからこれはね、ノリコが染めたんですけどね、
 いい色でしょう。私も昔、染め物してたんですけどね、
 ノリコの方法とは違うんですよ」

ひとしきりミーちゃんの説明に耳を傾けていると、
「こちらでごゆっくりどうぞー」
と、パテオからノリコさんの声がかかりました。
おおっ! これが南波先生のレポートで読んだ、
ウワサの「パテオのティータイム」かぁ!
うーん、なんと優雅なひととき・・・。
前回、3月に訪れたときは葉っぱもすっかり落ちて
寒そうだった「栴檀(せんだん)」の木が、
青々とした葉をたくさん付けて、
パテオに射す爽やかな光を演出しています。
そうこうしている間にも、
ひっきりなしに車で乗り付けたお客さんが、
まるで女学生のように、
ミーちゃんと抱き合って再会を喜ぶ
という光景が見られました。

「せっかくだから、帰りに
 水源地のツツジを見て行ったらどうかしら?」
あまりの来客の多さに長居は無用と立ち上がると、
ミーちゃんがそう勧めてくれました。
「いろんな種類のとってもきれいなツツジが
 たくさん咲いてるのよ。
 いつもは水源地に一般の人は入れないんだけど、
 毎年ちょうどツツジが見頃の
 この時期だけ開放されてるのね。
 ここからそんなに遠くないし、すぐわかりますよ」

ミーちゃんやノリコさんに教えられたとおり、
水源地(前橋市敷島浄水場)のツツジは満開で、
それは見事なものでした。
ゆったりと花を付け、
美しく咲き誇るツツジを眺めながら、
私はぼんやりと考えました。

ミーちゃんはいつも心から楽しそうにしていて、
ノリコさんをはじめ周囲の人たちは、
そんなミーちゃんが大好きなんだなあ・・・。
ミーちゃんたちは、移り変わる季節に身を任せ、
その季節ごとの楽しみ方を知っている。
毎日を楽しく過ごすためには何をどうしたらいいかを、
たぶん意識せずともわかっているんじゃないだろうか。
それが糸井さんの言う
「基準点のある暮らし」なんだろう。

でも、その基準点が全てというわけではなくて、
「脱線・飛び入り大歓迎」
という柔軟な好奇心を持っているから、
突然パソコンが送られてきてもOKだったんだろうし、
私のような訳のわからない編集者が突然やってきても、
「まあ、面白そう」
とすぐに受け入れられたのかもしれない。
ミーちゃんたちは、
“驚き”を“楽しみ”に変換する名人なのだ。

帰る道すがら、私は実に
晴れ晴れとした気分だったことを覚えています。
糸井さんが言ったように、
「泳ぎながら会議するような」
本の作り方だってあるんじゃないか!
まず最初に目次を決めて、
それからページを割って、と
順序正しく骨組みを組み上げていくのではなく、
あちこちに散らばった面白いと思うものを
拾い集めて造形するというやり方の方が、
やっぱりこの本にはふさわしいのかもしれない。

なりゆきによっては、
当初の主題から逸れてしまうかもしれないけれど、
その変化の仕様だって、楽しんで作ればいいのだ。
そう、ミーちゃんの生活のように。

そして、私は2回目のインタービュー取材の直前に、
永田さんにメールを出しました。

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今日は第2回インタビューをお願いします。
時間は、夜7時半からです。
先日のインタビューを受けて、
今日はどのようにお話を進めていこうかと考えたんですが、
やはり今の段階では、構成は横に置いておいて、
とにかく糸井さんのおっしゃる
「肉片」というか、「皮膚」を
たくさん収集することにしようかと思っています。

ただし、やみくもに話していても仕方ないので、
拠り所として、「80代〜」の過程を振り返り、
そこから派生するさまざまなことを語っていただいては
どうかと思います。

それは、先日の取材のときみたいに、
インターネット全体の話になることもあるだろうし、
ミーちゃんという人に関することになるかもしれない。
お年寄りの生活全般、という話かもしれないし、
人間関係にまつわる話かもしれない。
自由に生きるってことはさ、ってな話になったり、
もちろん「80代〜」に直結する話も有りです。

私は今回の本の隠れテーマ
(軸というか、主題に近い)として、
「糸井さんとお母さんの関係の(変化の)物語」
を目論んでいるので、できるだけ
その要素を引き出したいという気持ちがあります。
一応そのことを頭の片隅に置いて
質問を投げかけてみてください。

ただ、糸井さんの話を引き出していくうちに、
もっと違う何かが現れてくれば、
もちろん変えていくことも可能です。
先日のお話にもあったように、
変わっていくことのおもしろさを、
私も味わいながら進められたらと思っています。
(糸井さんは、永田さんの言うとおり、
 こちらの思惑通りにはしゃべりそうもありませんからね。
 相当裏切ってきますね。もちろんいい意味で(笑))

というわけで、
拠り所「80代〜」をとりあえず3つに大きく分けて
インタビューをしてみてはどうかと思います。
分け方は、こんな感じ。

1.毎日連載ラブラブ期
  第1章〜12章(実質第11章かな)
  レッスンでいうと、子連れのレッスン7、
  ミーちゃんの日記をEメールで送るという、
  いわば当初の目的を達成するまで。

2.ミーちゃんの日記全盛期
  第12章〜最終章までの、日記部分

3.落ち着き期
  第14章〜最終章までの、レッスン部分
  好奇心の嵐だった前半に比べて、
  ミーちゃんも糸井さんも読者も、それぞれの
  スタンスの取り方がわかってきた落ち着き期。

2と3は、インタビューの順番は
逆でもいいかもしれません。
今日は、1の部分を聞いてみていただけますか。
前回、「80代〜」をなぞっても時間がもったいない、
というお話も出ましたが、
一応各章の内容をかいつまんだものを用意していきます。

ではでは、また思惑通りに進まないかもしれませんが(笑)
今夜、よろしくお願いします。

まるいふみこ
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こうして、進むべき方向をはっきり心に決めた私は、
糸井さんへの2回目のインタビュー取材へと
向かったのでした。



【お知らせ】

darlingが「決死の覚悟で(本人・談)」
『豆炭とパソコン』の取材を受けまくっている。
だから、普段登場しないような番組とか、雑誌とかでも
「決死の中年男」を目にすることが多いと思います。

どんな番組や雑誌に出たか、出るかについて、
ここしばらくの予定をここに書いておきます。
(編集部調べ)

<書評>
 ・12月発売「いきいき」

 他にも共同通信発の各地方紙に記事がありました。

<インタビュー・対談>

 ・12/1(金)発売「日経アドレ」1月号
 ・12/10(日)報知新聞 新刊紹介著者インタビュー
 ・12/21(木)ダイム 著者インタビュー
 ・12/28(木)発売「メイプル」2月号の
           「BOOKインタビュー」

<テレビ・ラジオ出演>
 ・12/8(金) 「CDTV−Neo」
        SOPHIAボーカル松岡充さんと対談続き
 ・12/16(土)「おはよう日本」インタビュー



『豆炭とパソコン』
糸井重里著
1400円
世界文化社
ISBN: 4-418-00520-X

【お知らせ】
店頭で、「豆炭とパソコン」が見つからないときは、
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