YOSHIMOTO
吉本隆明・まかないめし
二膳目。

<第13回 何だったら、俺に、金、かさねえか?>

吉本 「逸らさない」奴に感心したことで、
具体的な例を言いますと・・・。

卒業してすぐ、
ぼくは町工場で勤めてたけど、
金がないなあ・・・って、そいつに、
「何だったら、俺に、金、かさねえか?」
って言ったら「いいぞ」と歯切れがいいんです。
「俺は、細君もないし、通帳があってな」
と、すぐにかしてくれましたけど、
その歯切れのよさには、
「へぇ。なるほどな」と思わされました。

割合にあっさりとお金をかすかと思ったら、
面倒なところでも、感心したことがあるんです。
「お金がないかねぇ」って言ったら、
「俺は持ってねえけど、
 俺のおやじは持ってる。
 だからおやじのところに行ってみな」
と言われて、俺は図々しくも、行って、
「お金かしてくれませんか、
 息子さんが行ってみろっていうから
 来ました」って。
糸井 吉本さん、その時、
もちろん丁寧に言ってるんですよね。
吉本 そりゃ、もちろん丁寧です。
いまの口調とは違います。
糸井 あ、よかった。いまさっき、
「俺にかさねぇか? 何だったら?」
っていう、口調だったから(笑)。
吉本 (笑)もちろん、丁寧に
言ってはいるんですけども、
見事にやられたなあと思ったことが、
あったんです。

「かしてくれませんか」と言ったら、
おやじさんはすぐに、「わかりました」と。
どのくらいの金額ですか、あ、そうですか、
と、そこまではよかったんだけど・・・。

「返済の計画は、お持ちでしょうか?」

そう、言われたんですよ。
ぼくは、学生気分でさぁ・・・。
「お金を持ってるんだから、かすだろう」
というくらいしか考えずに行ったから、
そう言われて、「ぎゃふん」というか、
「参った」という感じで。

仕方がないから
「今、持っていないですけど、
 きちんと返済計画書を作って参りますから」
と、ほうぼうの態で・・・。
糸井 (笑)逃げてきた。
吉本 はい。
そのあと、行かなかったですけど。
糸井 (笑)だって、返済できないですから。
吉本 (笑)それが、ほんとに
やられたなあと思いました。

よくよく考えてみると、てめぇが悪くて、
学生気分で調子よく、それ以上のことを
考えていなかった時に、
見事に返済計画のことを言われまして、
二の句が告げないという・・・。

なるほど、そういうもんだな。
そこまで考えないと、
お金をかすということは、
ありえないんだなぁ、と思いました。
糸井 それは、はぐらかしていないですよね。
「逸らさない」。
吉本 すごい感心しました。
社会人というか,ちゃんとやってる
社会人というのは、そういうんじゃなきゃ、
うそだろうなぁ、って思いましたね。

そいつの特色を言えば、そういうことです。
糸井 ぼくは、吉本さんがいちばん逸らさないな、
と思っていたんだけれども、
たしかに、逸らさない人は、いますよねぇ。

商いをしているおばちゃんにしても、
ひとりひとりのお客に、
はぐらかずに、怒る時には怒って、
丁寧に対応している人が、いますもの。
それは、人柄のすごさでしょうね。
吉本 そうですね。
逸らさないというのは、
ほんとにすごくて、
逸らさない人は、
ほんとはもっとたくさんのことを
思っているんだろうけれども、
どの話題に関しても、
逸らさないで偶然にでも言葉に出るいう・・・。
だから、いやあ、
そいつには、感心したなぁ。

お金をかす時に計画書というのも、
お金の時にはそれがいちばんいいんだ、
って、いろいろなところに応用が効きます。
糸井 そう思います。
吉本 逸らさないということで言えば、
ぼくは編集者から、
「こういうテーマで書いてくれないか」
と言われたら、自分の守備範囲に
交叉するところがある限りは、
「ああ、いいですよ」
と返事することに、しているんです。

そうじゃなければ、あっさりと、
「これはだめですよ」
「これは守備範囲ではないですよ」
と、すぐ言っちゃう。

そのどちらかには、
一応、しているわけなんです。

ぼくは編集者まがいのことを
やったことがあるんです。
そうすると、
「ちょっと考えさせてください」
と言われたあとに返事をされるより、
どうせやるつもりだったら、あっさりと
「はい、わかりました。やります」
と言われたほうが、編集者側からしたら、
いかに気持ちがいいことか、わかりますからね。

自分が編集者的になった時にはそうだから、
だから、どうせやる気なら、
すぐに「やるよ」って、決めるんです。

それと、
結局は借金しないで済みましたが、
玄関からここ(居間)までを
ちょっと、改造しようかな、という時に、
もし、お金がうんとかかったら、
こどもに、かりようか、と思っていたんです。
それは、思ったよりも
費用がかからないとわかったので、
かりないで済んだのですが、
「かりる時は、ちゃんと返済計画を出すからな」
なんて、そんなことを言ってたんですよね。
糸井 親子の間のやりとりでも、
返済計画のことで、昔のその人から
学ぶことがあったんですね。
吉本 そうなんです。
糸井 「その仕事、やります」
と、あっさり受けることの逆を言いますと、
断っているのに、粘られて押されて
それで引き受けちゃった時というのは、
いい仕事って、ほんと、ないですよね。
吉本 ほんとにそうです。
キツいですよねぇ。それは。
糸井 ものすごく、キツいです。
ぼくは、仕事を引き受けるかどうかは、
「縁」のものだと思っています。

こちらがやらないほうがいいかな、
と思っている時に、相手が、
「そこを何とか」と主張する場合って、
ほとんどは、相手だけの理由ですよね。
吉本 そうなんですよ。

(つづく)

2001-09-05-WED

BACK
戻る