YOSHIMOTO
吉本隆明・まかないめし
二膳目。

<第11回 二度と行きたくねぇところ。>

吉本 こどもには、
「もし行けるとするならば、
 学校に行ったほうがいいよ」と言いました。

「大学なら大学まで、学校制度としてあるなら、
 行ってみると、ああこういうもんか、と
 よくわかるから、ことさら
 コンプレックスを持つことがなくなる。
 それだけのことだけど、
 行けるなら行っちゃったほうがいいよ」と。

ただ、非常に天才的な人には
学校なんかに行く必要はないので・・・。

学校は、天才的な人も
「優等生」とか「秀才」だというように
落としてしまうから、
天才なら、行かないほうがずっといいと
ぼくは思います。

ただ、どう考えても、
うちの子はそうじゃないから、
知っておくだけでも大学に行くのは、
いいんじゃないか、とぼくは言いました。
糸井 世の中の流れでいうと、
フリーで何かをしていた人なのに
最終的には学校の教授になったり、
偉い人の方向に行きたがる動きが、
多いじゃないですか。

それこそ、
「自分の自己評価を上げていきたい」
という、発想ですよね。

実は、ある程度のことをすると、
割と多くの人が、
そこで自分の足を取られて、
おもしろくも何ともないところに行っちゃって、
なんか、双六で言うと
「あがり」になっちゃう・・・。

そういう動きは、すごくあると思うんです。
吉本さんはそういうことを
ばかばかしいと思われるわけでしょうけど。
吉本さんには、
そういう誘惑は、ないんですか?
吉本 それは、ないですね。

もちろん、仕事の中には、
「何でこんなものに俺は来たんだ」
と言うか、
「俺は検討違いをしていた、
 こんなところには来るべきではなかった、
ということは、ありますが、
どこかの教授なり偉い人になりたい、
というのは、ぼくはもう卒業したと言うか。

1960年頃には、学生運動というものがあって
ぼくはいろいろな地方に
呼ばれて行ったりしましたが、
なぜかあんまり、
がっかりしたことがなかったんです。
なかなかキツい質問をするけれども、
ツボがちゃんと入っているし、
がっかりしないんだけれども。
がっかりしたのは、一度だけですよ。
東京大学に行った時です。
糸井 あぁ。
吉本 がっかりした原因はふたつあって、
とにかく、言っていることが、
とんちんかんだという・・・。
質問があるってったって、
お前ら、とんちんかんじゃねぇか、って。

これは、他の学校では感じたことのないくらい
とんちんかんな質問ばかりで、
「どうしてこの人たちは、
 そういう人なんだろう?」
と思ったんですよ。それがまずひとつです。

それから、お礼としてくれたのは、
アルバムなんですね。
・・・これも、人を馬鹿にしてるなあって。
糸井 官僚そのままですね。
吉本 別に俺は、そんなに金を欲しい、
って言っているわけじゃないけどさ、
少なくとも、ほかの学校に行ったら、
きっと、学生さんたちが、
わざわざ集めたんだろうなあというお金を、
多くはないけど、くれるんですよ。

・・・そこを、アルバムとは、
何ごとだと思うわけです。

それなら、はじめから
「払えませんけど」
と言えばいいじゃねえか、って。
糸井 天皇陛下ですね。恩賜の煙草みたいに。
吉本 それで、ぼくに対する質問も、
「キツいことは言うが
 勘どころを率直に聞く」
かと言えば、
そういうことも、全然なくて、
見当違いなんじゃないの、と言うか。
ぼくはいろいろな大学に行きましたが、
こんなひどいところはないなあ、って・・・。

そこで、はじめて感じたんです。
「頭のいいということと、
 勘がいいというか、
 感受性としてすごいというのは、
 ちょっと、違うんだろうな」って。
そういうことは、はじめて体験しました。

日大や同志社や関西学院だとかにも
行きましたが、
そんなにとんちんかんなことを
言うやつぁ、いないぞと。

だから、二度と行かないぞ、と思いました。

あれは、すごいところですよ・・・。
いまはわかりませんが、その時は、すごかった。
話にならねえ、っていう感じだったんです。
糸井 吉本さんは、どうして
偉い人のほうにならないんですか。
吉本 ぼくは、それで懲りたっていうのが、
いちばんの原因かもしれません
糸井 (笑)
吉本 それから、もうひとつは、
こどものころから考えてみて、
俺が仲良くなった奴っていうのは、
あんまり・・・。
糸井 できがよくない?
吉本 そうそうそう。
できないやつで、勉強なんてぜんぜんだけど、
野球では選手だとか。
それで、ひととしての幅があるというか、
いい奴で、心の大きなことができる奴で・・・。
勉強の段になると話にならないという
そういう奴ばかりと、ひとりでに
仲がよかったものですから。
糸井 それは、思想としてじゃなくて、
趣味として、そうだったんですね。
吉本 そうです(笑)。
もう、趣味、と言ったほうがいいくらい、
そういう奴ばかり、ひとりでに仲良くなる。
学生時代、一貫して変わらなかったですね。

(つづく)

2001-09-03-MON

BACK
戻る