magic
ライフ・イズ・マジック
種ありの人生と、種なしの人生と。


天せいろか、それともザルか

ホール寄席に出演することになった。
1回目の出番は14時25分なので、
13時ちょい前に会場入り。

楽屋に弁当が用意されている。
到着早々に弁当をいただく。

早めにお腹半分ほど満たして、
出番の頃に体が軽いというのが理想。

なんせ、今回は最後に人体浮遊術を演じる予定。
私の身体が浮くのだから、
食べ過ぎて浮かないと困るのだ。

めちゃめちゃウケる。
ウケ過ぎて、むしろ戸惑う。

だが、誰もがめちゃウケているので、
今日はお客さんが良いという結論に到達。

楽屋で夜席まで待機。

前座さんが、
「夕食は出前を取ります。
 何にします?」

出前、いやぁ、待ってました。
楽屋のいちばんの楽しみ、出前。

さっそくメニューをしみじみとチェック。
私は大好物の鴨せいろを注文。

前座さんに聞いてみる。
「で、あんたは何にするの?」

「そうっすねぇ、天せいろにします」

しばし後、鴨せいろ到着。
ちょっと多めだなぁと思いつつも、
ズズッ、ズズッと完食。

ふと前座さんを見ると、天せいろではなく、
ザル蕎麦をすすっているではないか。

「あれ、天せいろじゃないの?」
「やっぱ、前座なのに天せいろはちょっと‥‥」

蕎麦1枚を食べるにも、
おのれの立場を考えなければならないのか。
良いんだか悪いんだか。

前座でもかまわず天せいろを食べたとする。
後に立派な落語家になれば、
「あの人は、前座の頃から堂々と天せいろ食べてさ。
 若い頃から、大物だったねぇ」

ダメな落語家になれば、
「あいつは昔っから気配りのできないやつでね。
 前座の頃にいちばん高い天せいろ、
 平気で食ってんだから。
 バカは治らないねぇ」

なんてことになるのだろうなぁと、妙な感慨に耽る。
たかが天せいろ、されど天せいろ。

夜席を終えての帰り道。

前座さんの、なんだか寂しそうなすすり音が
耳の奥から聞こえてきて、
「前座くん、がんばれよ」


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2018-07-08-SUN
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