magic
ライフ・イズ・マジック
種ありの人生と、種なしの人生と。


親父の電話

故郷に住む96歳の親父が、
久しぶりに私の家電にかけてきた。
「ほう、今、家におるんか」
そりゃそうだよ、だから電話に出てるんだよ。

「今、1杯飲んだとこでなぁ」
1杯じゃなくて、いっぱい飲んだみたいだね。
でも、飲めてるってことは、
元気だってことだね。

「仕事は、大丈夫か」
まぁまぁ、ぼちぼちだよ。

「仕事がないと、せつないでなぁ」
そりゃそうだけど、親父、
私はもう年金もらう年齢だよ。

定年退職しててもおかしくないよ。
それでも、息子の仕事の心配をしてるんだから、
親ってのは大変なもんだ。

「こっちはみんな、元気にしとるでなぁ」
ごめんな、親父。
考えてみれば、息子のオレが
96歳の父の心配しなけりゃいけないのにさ。

もう何ヶ月も電話してなかった。
そりゃぁ、さすがに90歳過ぎてからは、
いつもいつも親父のことを心配してる。

けど、いくつになっても親父は元気なもんだから、
ついつい、ご無沙汰してしまったんだよ。

「まぁ、なんかあったら、電話してくれや」

この分じゃ、
「実は、仕事でしくじって借金こさえてしまって。
 たのむ、親父、100万円貸してくれ」
そうたのめば、すぐさま貸してくれそうだ。

でも、振り込みはできないから、近くに住む姉に、
「息子の口座に100万円、振り込んでくれんかの」
で、姉が激怒して電話をかけてくるに違いない。

以前に聞いたことがある。
「家にもウソの電話が
 いっぺぇかかってくるけどなぁ。
 そんな簡単に、ダマされんでなぁ」

でも、万が一ってこともあるから、
今度帰った時に合言葉でも相談するかねぇ。

バカ息子の私は最近、
『ダマし続けたマジシャンが教える、
 決してダマされない方法』
と題して講演をしている。

そんな息子の親父がダマされたんじゃ、
シャレにならないもんね、親父。

「じゃぁ、またな」

以前、95歳の父親を亡くされた方がしみじみと、
「皆さん『大往生ですね』とおっしゃるんですが、
 家族にしてしてみれば、
 あともう少し、あと2、3年でいいから、
 生きててほしかったです」

身内はきっとそう思うんだろうな。
今はその気持ち、すごく分かるような気がする。

「親父、じゃぁ、また、元気でね」


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2018-06-17-SUN
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