magic
ライフ・イズ・マジック
種ありの人生と、種なしの人生と。


原因はこれだったのか!

5月に入ると、
「6月、あるいは7月くらいの暖かさ」
なんていう天気予報が聞こえてくる。

4月は連日のように、
「5月下旬の暖かさ」
だった。

この分だと7月、8月には、
いったいどれだけ暑くなるのか、
心配になってくる。

今日の日差しも、すでに朝から
暑いくらいだなぁと嘆きつつ、
お昼ご飯を食べに出た。

すれ違う人たちの中には、
Tシャツ、短パンの人もいる。

暖かい南風が強く吹いていて、埃っぽい。

私はいつものレストランに入り、
カウンターのいちばん奥の席に座った。

いつもは窓側の席に座る。
この席からは、
店主が忙しく調理をしている様子が見える。

いつも、手際の良さに感心したり、
鮮やかな包丁さばきに見入ってしまう。

「あぁ、小石さん、こんにちは。
 どうです?
 外、暑くないですか」

店主がカウンター越しにトントンと
まな板の音を響かせながら、笑顔で聞いてくる。

私はメニュー板を眺めながら、
「いやはや、もう夏みたいですよ」
と応え、『牛肉と玉ねぎの炒め』を注文。

この店の『牛肉と玉ねぎの炒め』は絶品だ。
これを目当てに来店する客も多い。

牛肉もうまいが、炒めた玉ねぎが甘い、うまい。
常連さんが『玉ねぎの炒め、牛肉添え』と
密かに呼んでるくらい、玉ねぎが多い。
でも、その玉ねぎの甘さが牛肉に合う、合う。

今日は初めて、カウンターの奥に座った。
午後の遅い時間、客は私ひとり、
なのにカウンターから離れた窓際の席というのも
悪いかなと考えたのだ。

席に座り、トントンという軽快な音を聞いていると、
なぜか突然に鼻水が出てきた。
目がしょぼしょぼし始め、涙目になった。

私は大いに焦った。
「とうとう、私も花粉症になってしまったのか。
 それとも、今日の埃っぽい南風のせいか、
 何かのアレルギーか」

何にしても、この症状は辛い。
鼻水はかんでもかんでも鼻の奥から湧いてくるよう。
目は痛いような、ツンとくるような。

とうとう涙がこぼれ始めた。
はたして、こんな状態で
ちゃんと料理を味わえるのだろうか。

医者に行くべきか、
薬を飲まなければいけなくなるのだろうか。
これまで、健康だけが取りえの人生だったのに。

と、店主が唐突に、

「小石さん、すいませんね。
 玉ねぎ、やっぱり沁みるよね。
 窓際の席に、移りますか?」

カウンター越しに、刻まれた玉ねぎの山が見えた。


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2018-05-06-SUN
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