magic
ライフ・イズ・マジック
種ありの人生と、種なしの人生と。


百万円豆腐

久しぶりに夢を見た。

いつも見ているのかもしれないが、
今回は有名な師匠が出てきたから、
夢の中身を鮮明に覚えているのかもしれない。

夢に出てきた大師匠と生前、
地方の仕事でご一緒したことがある。

大師匠はご高齢で、杖をついていた。

だが、新幹線が目的地に到着するやいなや、
杖をつきつき、ものすごいスピードで
歩き出されるではないか。

大師匠をかばうように
ゆっくりと歩き出した我々を
完全に置き去りにして、
さっさと迎えのタクシーに乗り、
走り去ってしまった。

あの杖は必要なのか、
それとも転ばぬ先の杖なのだろうか。
私たちは大いに困惑したものだ。

そんな大師匠のたまわく、

「若いもんは、すぐにウケたがる。
 焦っちゃぁダメなんだよ。
 最後に、ほんの少しばかり、
 ウケりゃぁいいんだよ」

歩くのは早く、落語はゆっくりということか。
なるほど、なるほど。

しかし、大師匠ともなれば高座に上がるだけで、

「おぉ〜っ! すごい!
 動いてる! しゃべってるぅぅ!」

みたいな感動、感嘆の声が満ちる。
実にうらやましい。

さて、そんな大師匠が登場する昨夜の夢。

私は大師匠の弟子のひとりになっている。
たぶん前座。

高座に上がると、一番前の席に
見覚えのあるおばさんが座っている。

よく見れば、故郷の幼なじみではないか。
幼なじみのおばさんが、
なぜか豆腐を生のまんま、手に持っている。

豆腐から水がポタポタ、膝を濡らしている。
それが気になり、思わず、

「ねぇ、この手ぬぐいにその豆腐、
 乗っけておきなよ」

すると、おばさん喜んで、

「これ、あたしたちの故郷の豆腐、
 じゃぁこれ、差し入れ」

そう言って、座布団の前に豆腐を置いた。

「おいおい、あたしは仏さんじゃないんだから、
 生物をお供えするのはご遠慮ください。
 お賽銭だったら、いくらでもどうぞ」

大師匠の弟子として、必死に高座を努めよう、
笑いを取ろうとがんばる私。
夢だというのに。
現実ではちっともがんばらないのに。

おばさんは最近、故郷の甥っ子から電話を受けた。

「おばさん、オレ、オレだよ。
 最近、会社の金を使い込んでしまって。
 そいで百万円、貸してほしいんだよ」

オレオレ詐欺のような、
でも本物の甥っ子の借金の申し込み。

おばさんは帰ってこないお金とは思いつつも、
百万円を故郷の可愛い甥っ子のために持参したという。

「そしたらね、お礼に
 この豆腐を持たせてくれたのよ。
 だから、この豆腐、百万円の豆腐なのよ」

「そうかぁ、そりゃ災難でございましたね。
 昔っから言いますよ、
 『故郷は豆腐(とおく)にありて想うもの』」

芸人暮らしが長くなり、
私は夢の中でも必死に芸を考えているらしい。
やれやれ。

目が覚めた。
朝から豆腐で一杯やりたくなった。
百万円豆腐、さてどんな味わいやら。


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2018-04-22-SUN
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