magic
ライフ・イズ・マジック
種ありの人生と、種なしの人生と。


春の香り

春は最初に鼻に訪れるような気がする。
植物だろうか、空気だろうか、春の香り。

春の香りを感じると、温泉に行きたくなる。
あの、温泉ならではの香りに浸りたくなる。
あぁ、温泉に行きたい。

そう思っていると、
SNSに温泉の写真を載せている、
実にけしからん人々がいるではないか。

皆さん、気持ちよさそうに首まで浸かっている。

羨ましいを通り越して
腹が立つなぁと思っていたら、
源泉かけ流し、全室に露店風呂ありのホテルが
新規オープンしたとの情報が入った。

これはぜひとも行ってみなければと、
予約の電話を入れた。

駅前のレンタカーを借り、ナビを入れてみる。
やはり、ホテルは検索できない。
まだ情報がナビに入っていないのだ。

まぁいいや、秘境というか辺境というか、
そういうところに野趣溢れた名湯が
コンコンと湧き出ているに違いない。

なんとかホテルへの入り口にたどり着いたのだが、
エントランスまでの道がずいぶんと狭い。

後に聞いたら、自然林の中なので
道路の拡張はできないとのこと。

しかし、それでこそ林に囲まれ、
プライバシーが保たれたまま、
ゆったりと露天風呂に浸かれるというもの。

車を降りた瞬間、沈丁花の甘い香りが漂ってきた。
これこそ、春の香りの代表。

チェックインを済ませ、部屋に入り、
すぐさま源泉かけ流しにドブン。
思ったより熱いお湯で、私は慌てて湯から出た。

そうだった。
初めに言われてたっけ、
源泉が熱いので水栓を開けて温めてくださいと。

まったく、そんな注意事項もすっかり忘れ、
「源泉、源泉、かけ流し〜」
などと歌いながらザブン、アチチ、アチチ。

だが、外はまだ冬の空気、
露天ゆえすぐにお湯は適温となり、
今度こそゆっくりと源泉に浸かることができた。

もうもうたる湯けむりに、かすかな硫黄の香り。
体はじんわりと温まるけれど、
顔は冷たい空気にさらされて、のぼせたりしない。

露天風呂の外は、どこまでも林が続いている。
林の向こうは山。
山は少しだけ、春の気配を漂わせている。

山の香りと硫黄のいい香り。
もう、一番の贅沢でないかい。
生きててよかった。

夕食は、地下のレストランでフレンチ。
赤ワインのグラスを頼んだ。
まだ若いお兄ちゃんが注いでくれる。

注がれると同時に、
軽やかな赤ワインの香りが漂う。
やはり、春めいた爽やかな香り。

突然、赤ワインの香り以外に、
ちょいと甘めの臭いがするような。
なんと、サーブしてくれる若者の脇が
かすかに臭う。

私は鈍感だけど鼻だけは敏感。
グラスに注ぐたびに、
私の鼻先に彼の脇が急接近してしまう。

でも、これも春の香りといえば春の香り。
青春の香り。
やれやれ、今日は色んな春の香りを
満喫できそうだ。


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2018-04-01-SUN
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