magic
ライフ・イズ・マジック
種ありの人生と、種なしの人生と。


忘却力

ご近所さんと渋谷に呑みに行った。

以前もついついご馳走になってしまったので、
「今回こそは、ちゃんと払うぞ」
と、かたく決意しつつ乾杯をした。

生ビールに続いてワインを2、3杯呑んだら、
もうすっかり支払い義務を忘却、
「はいはい、もう1軒まいりましょう」

結局、財布に手をかけることもなく、
ご馳走さまも忘れ。
あぁ、情けない。

カラオケに流れ、ワイン呑みつつ歌う、歌う。
このあたりから記憶が曖昧になる。
動画じゃなくて、写真のような記憶しか
残ってない。

ご近所さんがマイクを握っているところ、
聴いている友人知人の笑顔などを
静止画で覚えているだけ。
ダメだこりゃ。

カラオケを切り上げ、
フロントで会計している人の後ろ姿を
覚えてはいるが、支払うことなど忘却のかなた。

なのに、
「ねぇ、もう1軒、
 僕の知り合いの店に行きましょう」

しかし、その店までの道のりも忘れている。
あちこちさまよい歩いて、やっと辿り着いた店で
何を呑んだんだか話したんだか。

ただ、断片的に写真のように覚えているだけ。
泥酔男にとまどうマスターの顔。
ご近所さんの苦笑い。

その後、タクシーで送ってもらったらしいが、
さっぱり記憶なし。
呑み代に加えてタクシー代も払わず。

またまたやっちまった呑み逃げ、食い逃げ。
ご近所さん、本当にごめんね。

後日、長い付き合いの友人と呑みに行き、
呑み逃げを自供。

すると、

「じゃぁ小石さん、
 今回はその罪滅ぼしってことで、
 今日の呑み代、よろしく」

友人はカラカラと笑い、
美味しそうにビールを呑み干すではないか。

この友人は前回、

「今日は財布を忘れたよ、まいったなぁ。
 次にまとめて払うから、ごめんね」

そんな前科を、すっかり忘れているご様子。

近年、私たちの忘却力は増しているようだ。
でも、私はいつも念仏のように
心の中で唱えているのです。

「次こそはちゃんと払う、払う、払う‥‥」


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2018-03-11-SUN
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