magic
ライフ・イズ・マジック
種ありの人生と、種なしの人生と。


『電車を待つあいだに‥‥』


さて、今日も仕事に出かけましょうと電車に乗った。

乗り換え駅のホームから釣り堀が見える。

意外と大勢の人たちが、のんびり釣り糸をたれている。
うらやましいな、なんて思う。
私はこれから仕事だというのに。

端に座っているおじさんは、70歳くらいか。
手慣れた様子で竿を繰っている。

定年を迎え、毎日が日曜日とばかりに
釣り堀通いを続けているのだろうか。
実のところ、家に居場所がなかったりして。

真ん中のカップルは、釣り堀デートだろうか。
嬉しそうに肩を寄せ合っている。

仲がいいのは結構だが、竿まで近すぎないか。
互いの糸が絡んじゃったりしないか。
余計なお世話だが。

少し離れたところに座るおじさんも、
カップルを苦々しそうに見ている。
そう見えるだけかもしれないが。

考えてみれば、釣り堀で釣り糸をたれながら
満面の笑みを浮かべている人なんて見たことない。
いたら、こわいかも。

私は電車を待ちながら、勝手に想像を巡らせる。

ふと思う。
マジシャンという稼業も、
この釣り人たちとあまり
変わらないのじゃないか。

釣り人たちのように、
私も業界という池や湖に釣り糸をたれ、
「いい仕事が釣れますように」
なんて、のんびり当たりを待っているのだ。

釣れて釣れて忙しいのは大変。
ごくたまに釣れればいい。
のんびりゆっくり、
浮きの動きを見ているだけでもいい。

ガツガツと釣果を争うなんて、今の気分じゃない。
大物じゃなくたっていい。
小さくても、引きの強い仕事だってあるはず。

エサは、水面に映る我が身のみ。
「おっ、なんだか面白そう」
なんて、喰いついてくれればいいな。

エサが我が身となれば、
なるべく美味しそうに見せるのも必要だろう。

「小石さん、男性専用のネイルサロンがありますよ。
 頭皮マッサージもあるし、いかがですか?」
なんて誘われていたっけ。

私の妄想はどこまでも広がってゆく。

「仕事終わりに、行ってみようかな」
なんて思っているうちに、電車がやってきた。

私は急ぎ仕事モードに切り替えつつも、
釣り人たちの姿を窓越しに見送った。

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2017-10-29-SUN
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