magic
ライフ・イズ・マジック
種ありの人生と、種なしの人生と。


『一流ではないが自己流です』


どうも最近、漠然とした不安を感じている。
ひょっとすると、マジシャンとしての才能が
ないんじゃぁないか?
40年もマジシャンをやってきて、今更だけど。

「そりゃぁ40年もやってるから、
 そんな不安を感じるんだよ。
 10年目、20年目、才能があってもなくても、
 とにかく夢中で夢ばかり見て
 走ってたんじゃないの」

そうか、そうかもしれない。

でも、漠とした不安に加えて、
なんだか後ろめたい思いもあるからややこしい。

ふと気づけば、我が師匠の年齢をはるかに
追い越してしまった。

もちろん、追い越したのは年齢だけで、
あとは見事に、
「師匠、どこまでもお先に、どうぞ」

でも、まぁいいか。

だいたい、弟子だった頃から、
「師匠は特別で、偉大過ぎます」
なんて、呆れるように尊敬していた。

「なんでそんな偉大な師匠のところへ
 弟子入りを許されたの?」
さぁ、私にも分からない。

不肖の弟子ではあったが、師匠が好きだった。
師匠のステージを、袖から見ているのが好きだった。
弟子というより、
単に師匠のファンだったのかもしれない。

師匠には7、8人の弟子がいた。
師匠が亡くなると、弟子たちは皆、
二代目を名乗りたがった。

マネージャーが弟子たちに順番に聞いてまわり、
私にもついでのように聞いてきた。
「で、君も二代目になりたいと思ってんの?」

私は即座に、
「いいえ」

だって、師匠の二代目なんて論外だし、それに、
私はただのファンだったのだから。
ファンが二代目を継ぐなんて、ありえないでしょう。

マネージャーは私の顔を覗き込み、
奇妙な嘆息をひとつ、ふぅともらした。

ファン気分だったので、
修行も特に厳しいとも辛いとも思わなかった。

他のお弟子さんたちは修行疲れだろうか、
みんな暗い顔で辛そうに働いていた。
それでまた、よく怒られていた。

私はあまり怒られなかった。
「君は変わってるねぇ。
 なに考えてんの?」

もしも、私が間違って
師匠のような有名マジシャンになっていたら、
すぐに有頂天になり、
鼻持ちならない人間になっていたに違いない。

ふんぞりかえって、いばって、
人を馬鹿にして見下して。
結果、最低の人生を送っていただろう。

そう考えれば、今は自分の寸法に合わせて
生きていられるような気がする。

プロ・マジシャンの世界に入って、40年目を迎えた。

「才能とぼしくても、
 まぁ、がんばってきたのだから、
 もう少し、続けなさいね」
芸の神様が、小さな声で
ささやいてくれているような気がする。

一流じゃないけれど自己流でもうちょい‥‥。
へへへ、今後ともよろしくお願いします。

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2017-10-01-SUN
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