magic
ライフ・イズ・マジック
種ありの人生と、種なしの人生と。


『マジックは残り、マジシャンは消えた』


お、お、おそろしい映画を観た。

物語は、作家志望の若者が偶然、死者の日記を手に入れ、
それを自分の小説として出版社に送るところから始まる。

盗作小説は出版され、大きな評価を得る。
若者は一躍有名小説家となり、美しい彼女を得る。

マジックの世界でも、盗作は行われている。
ただ、その盗作マジックが大評判になり、
マジシャンはスター街道まっしぐら、
美しい彼女ができました、
なんていうお話は、今のところない。

「はいはい、そりゃもう、すごい新ネタを考えました。
 次の番組で披露すれば大評判まちがいなし、ははは」
などと、企画会議で言ってしまったことがある。

しかし、私はその時点で新ネタを考えついていない。
言ってしまってから考えるのが常だった。

だが、考える時間は多く残っていない。
となると、ついつい誰かのマジックをパクりたくなる。

そのパクりたい気持ちがよぉく分るので、
益々この映画の怖さが身にしみるのかもしれない。

マジック界という閉鎖的な世界のこと、
テレビ界のプロデューサー、ディレクターには
盗作だろうが何だろうが、気づかれもしないだろう。

でも、できないんだなぁ、盗作は。
「それをやっちゃぁ、おしめぇだよ」
フーテンの寅さん風のセリフが、
聞こえてくるような気がするのだ。

盗作した小説が大評判となった若者は、
「次回作、期待してるよ」
という編集者からのプレッシャーに悩む。

当たり前だ。
だが、そうそう次々と盗んで書ける素材が
出てくるはずもない。

更に若者の前に、
「お前は、死者の記憶を盗んだな」
などという、おそろしいセリフを吐く男が現れる。

そのシーンになると、
私はすっかり若者の味方になっている。
「いいじゃないか、一回きりだよ。
 若気の至り、許してやってくれよ」
なぜだか分からないが、弁護人の立場になっている。

私は盗作をしないマジシャンである。
だけど、許されるものなら盗みたいと思ったことがある。
バレない保障があったなら、盗んでいたかもしれない。

若者はついに殺人まで犯してしまう。

皮肉なことに、若者は自身の盗作体験をもとに、
やっとオリジナルの傑作小説を書き上げ、
出版社に送るのだった。

元のアルバイト生活に戻った若者は深夜、
書店のウインドウに平積みされた
自身のオリジナル小説を見つける。
しかし、若者は踵を返して雨の街に消えてゆく。

小説は残り、作者は雨の夜の闇に消えて映画は終わる。

私の頭の中で、盗まれたマジックは残り、
マジシャンは闇に消えてゆく物語が
始まろうとしていた。

ツイートするFacebookでシェアする

このページへの感想などは、メールの表題に
「マジックを読んで」と書いて、
postman@1101.comに送ってください。

2017-07-09-SUN
BACK
戻る