magic
ライフ・イズ・マジック
種ありの人生と、種なしの人生と。


『キュウリと色紙とモネの池』


私の故郷は山々に囲まれ、
真ん中を清流が流れている。
川面をツバメが滑空し、川鵜が岸辺に佇んでいる。
放流されたばかりの鮎を狙っているのだろうか。

田んぼの上空をくるくると飛び回るのは、ひばり。
漢字で書くと、雲雀。
雲のように高く初夏の空を漂っている。

白鷺は低く飛び、
はるか上空をトンビがゆっくりと旋回している。
実に自然豊かで平和な光景。

もっとも、地元の人に言わせれば、
「高度成長もバブルも、なにもかも関係なしに
 ここの空を通り過ぎて、相変わらず田舎なんだわ」

そうだよねぇ、でも、それが良かったと思うよ。
仕事で日本全国を回るけれど、
こんなに変わらない光景を保っている田舎というのは、
なかなかないもの。

「近所の家の庭にバラが咲いとるよ」
長姉に連れられて、ご近所を訪ねた。

バラも咲いてはいるが、それよりカボチャやスイカ、
メロンやキュウリが豊作な庭なのであった。

「メロンやカボチャはまだこれから、
 キュウリはそろそろ食べ頃やでね」
おばさんはキュウリを2本、くれた。

家に戻り、酢もみにしてもらった。
タネの歯触りがしっかり感じられる、懐かしい味わい。

翌日、キュウリをくれたおばさんが友人を連れ、
「この人がね、ナポレオンズのファンやと。
 サインしてやって」
色紙を2枚、テーブルに置いた。

私は冗談で、
「サインは1枚1500円です」
おばさんはまったく動じず、
「ほうかぁ、昨日あげたキュウリね、
 あれも1本1500円やでね。
 ちょうどピッタシ、よかったわぁ」

参りました。

「おじさん、今日は天気がいいで、モネの池に行く?」
姪の運転で連れて行ってもらうことにした。

しばらく走ると、どんどん山深くなった。
「この辺はキウイの里でね、アイスが食べられるよ」
キウイの甘酸っぱい果肉がたっぷりのアイスを食べつつ、
更に山道を進んだ。

急に開けた田んぼの奥に『モネの池』はあった。
およそ15mくらいの細長いプールのような池の周りを
二重三重に人々が囲み、写真を撮っている。

まさに絵のような、モネの池。
透明な湧き水に浮かぶ蓮の花、泳ぐ鯉。
我が故郷に、こんなにも美しい光景があったとは。

「おじさん、かき氷、売っとるよ」
モネの池を愛でつつのかき氷も悪くない。

冷たいかき氷を口に含むと、子供の頃の夏の味がした。
巻き戻せない時が一瞬、戻ったような気がした。

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2017-07-02-SUN
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