『こいし、四十にして惑う』
孔子いわく、『四十にして惑わず』。
内緒だが、ナポレオンズを結成して
今年40周年であります。
つまり、私も芸歴40歳なのだ。
その割には、私は惑いっぱなしの日々である。
「で、今日はどんな手順?」
そんな相方の問いに、私はすぐさま答えられない。
はて、今日の観客にウケそうなマジックは
どれだろう?
私はいつまでも惑い続ける。
ウケない場合も考えて、いかにもマジックらしい、
不思議なネタを並べるのはどうだろう?
でもねぇ、それだと笑いは薄くなるよなぁ。
ちょっと前まで、私は惑わず、
「今日の手順はコレから始まって、アレに繋げて。
手に持った電球が灯って
『デンキュウ・ベリー・マッチ!』。
これで行きましょう〜!」
ところが、芸歴40年を迎えた途端、
私は大いに惑い出したのである。
「ウケないかもしれない」
そんな惑いがあっては、とてもじゃないが、
「電球が点いたぁ、デンキュウ〜、ベリマッチ〜!」
なんて恐くて言えやしない。
惑ってしまうのはマジックだけではない。
朝昼晩、いったい何を食べようか?
惑いに惑う日々。
以前なら、朝はパンとコーヒー、昼は蕎麦かごはん。
夜はイタリアンか中華。
そりゃもう、即断即決であった。
ところが最近、
「朝からごはんにしてみるかなぁ、
いや、そうなると昼は蕎麦、麺類かい?
麺類は夜の方がいいんじゃないの?」
孔子さんは、いったい何を食べていたのだろう?
やはり四十にして惑わず、
「はっはっは、拉麺に水餃子、鉄板メニュー!」
てな状況だったのだろうか。
孔子さんならぬ小石さんは、
「なんか美味しいもの、ないかなぁ」
腹ペコになっても惑うばかり。
急に我が師匠のことを思い出す。
師匠は一度も惑うことはなかった。
まぁ、惑っていたら
ジェットコースターからの大脱出とか、
火炎油地獄からの大脱出なんて
危険な芸をやってられないからね。
いつだってやることを即断即決、
まったく、すごいマジシャンであった。
食べるのだって、朝昼晩ステーキだった。
もっとも、それで体調を崩したのかもしれないが。
しかし、あのころは私も惑わない弟子だったのだ。
「で、君は師匠の名前、芸を引き継ぐ気はあるのかね?」
なんて聞かれて、
「すいません、イヤです、無理です」
惑いなく即答していたものだ。
さて、孔子の言葉は続き、
『五十にして天命を知る、六十にして耳順う・・・』
10年後、芸歴50年に天命を知るまで
惑い続けるとするか。
 
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