magic
ライフ・イズ・マジック
種ありの人生と、種なしの人生と。


『師匠とウニの味噌麹漬け』


半蔵門駅からテクテク、国立劇場に着いた。

楽屋口でスリッパを出してもらい、
「靴はそのままで」

おじさんは帰り際、たくさんの靴の中から
間違えることなく私の靴を出してくれる。
世の中、色んなプロがいるものだ。

靴を見て、その人の芸まで見抜けるような、
ちょっと恐いプロだったりして。

楽屋を出たところに、山盛りの料理が並んでいる。
公演の合間、好きな時に好きなものを
好きなだけ食べられるのだ。

「薄味だけど、醤油なしでも大丈夫ですよ」
ケータリンブのプロが腕をふるった料理の数々。

いやはや、このナスの漬物は美味しい。
大きめに切り分けられたナスの、絶妙なる塩加減。

鶏肉と豆腐の煮物。
旨味の濃い鶏肉、ほのかな豆腐の甘さが舌にとろける。

仕事前だから、ご飯は茶碗に半分。
おぼろ昆布のみそ汁ふうふう。

うまうま、美味しすぎるなと食べていると、師匠が、
「これからちょっと、15分くらいかな。
 いや、もっと短いかも。
 その後ですから、よろしく」

えっ?
まだまだ私たちの出番は先では?
えっ?
前にもらっていたスケジュールが間違ってる?

あわわわわ。
急ぎ衣装に着替える。

まずは私ひとり高座にあがると、
客席は高齢者が多いようで、
「今日のお客様とは関係のない話ですが、
 日本は高齢化社会です。
 今日のお客様とは関係のないお話ですみません(笑)」

「高齢の方々の脳みその健康には、
 マジックで驚いてもらうのが一番です。
 大して不思議じゃなくても、無理してでも驚くと(笑)
 脳みそが若返る、かもしれません」

しばしすると、やっとネタを仕込んだ相方が高座に登場、
ゆるゆるとマジックショーが始まった。

再び師匠の出番。
師匠自身が人生を楽しんでいる、謳歌しているに違いない、
そう思わせる賑やかな一席。

この師匠とご一緒すると、
私のしゃべりも弾むような気がする。

私をひょいと持ち上げ、
高みに持ち上げてくれているような、
不思議な高揚感に包まれるのだ。

家に帰り、師匠のお土産のウニの味噌麹漬けをいただいた。
「ご飯でも、酒のアテでも」

まずは久しぶりの日本酒で、〆はご飯に乗っけて。
濃厚、ねっとり、後味甘く、あぁ、たまらん。

食べたことはもちろんないが、なんだか師匠の噺のような
味わいだと思った。

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2017-05-07-SUN
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