magic
ライフ・イズ・マジック
種ありの人生と、種なしの人生と。


『欲にまみれる』


前回の『極上極楽の旅』に誘ってくれたのは、
私の古い友人であるS君でした。

このS君、若かりし頃はお調子者で、
「いやぁ、小石さん、
 マジック、面白いっすよね〜、
 いやぁ、もう小石さん、
 バンバンやっちゃいましょうよ〜、ははは」
(あくまで私の抱いたイメージ、印象)

よく言えば、気さくで明るい好人物であった。

ちょっとしたマジックを教えれば、
「いやぁ、小石さん、
 すごいっすね、あのマジック。
 もう、みんな驚いちゃって驚いちゃって。
 アゼンボーゼン、信じらんない〜、でしたよ」

いや、実際にはそれほど驚きはしないとは思うのだが、
S君にかかるとバカウケ、大爆笑みたいになる。
いいんだか悪いんだか。

そんなS君であったが、年齢を重ねて
各地で大歓迎されるコーディネーターになっていた。
大いに感心した私は、誘われると躊躇なく
ツアーに参加するようになったのだ。

今回の長野ツアーに同行したのは、12人だったろうか。
フード・コーディネーター、チーズ・プロ、料理研究家、
料理等の書籍の出版関係、温泉ソムリエ、
フリー・ライター、
何かのオタクさん、何かの隠れオタクさん。

みなさん今回の『極上極楽の旅』に
ふさわしい方々ばかり。
私だけ、旅行ばかりしている
普通のおじさんマジシャンなのであった。

そんな様々な人々を乗せて、
マイクロバスは山田牧場を出て
次の目的地、雷滝へと向かった。

雷滝はまさに地獄の様相であった。
ものすごい水量の滝が谷底に流れ落ち、
滝壺に落ちたら最後、
浮かび上がることない一巻の終わりを思わせる。

なんだか温泉で極楽を見た私には恐ろしい光景であるが、
みなさんは嬉々として滝壺に駆け下りる。

「よくもまぁ、
 恐ろしいところにためらわず行きますねぇ。
 僕なんか、むしろ遠ざかっちゃいますからね」
そういう私に、

「もっと近くに、もっと深く、溺れるように、ですよ。
 食べたい、なんでも味わいたい、知りたい話したい。
 そう、欲にまみれたい。
 
 でもそれが成功の元、プロ中のプロ、
 オタク中のオタクなんですよ」

そうかぁ、私はいつも腹八分目、
もうちょっとというところでやめときましょう、だった。
そうかぁ、欲にまみれるかぁ。
私は思わず、
これまでの淡白な人生を振り返るのであった。

さて、車は高山村に到着。
信州長野といえばりんごの一大産地、
壮大な畑でりんごの収穫体験となった。

桃源郷ならぬ林檎源郷の趣、
この世とも思われぬ美しい緑と赤の世界、
りんごの芳しい香り。

私は何かの欲にまみれてりんごをもいだ。
りんごをもぐと、
なぜかシアワセ感がこみあげてくるのであった。

りんご畑に入ると男たちは優しい微笑を浮かべ、
女性たちは艶やかに。
そう、まるでアダムとイブのように。

りんご畑で婚活すれば、
意外と多くのカップル誕生かもしれない。
それほど、りんご狩りは艶やか体験だった。

りんご畑を庭にしたような古民家で
新蕎麦、おやき、それに生ハム、チーズなどを
高山村のワインとともにいただいた。

今や信州信濃の伝統の味、蕎麦、おやきに続いて、
ワインやチーズなど、
新たな名産品の生産が始まっているのだ。

私は再び欲にまみれ、蕎麦を食べワインを飲み、
おやきとチーズを口中調味するのであった。

長野の旅は静かに深く、美しい欲にまみれる旅であった。

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2016-12-25 -SUN
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