magic
ライフ・イズ・マジック
種ありの人生と、種なしの人生と。


『続・私の竜宮城』


鶏の鳴き声で目覚め、宿自慢の朝ごはん。
あら汁、焼き魚、イカ刺し、サザエ。
サザエは、この島では
朝昼晩の食事に必ず付いてくるらしい。

隣の島の海士町(あまちょう)へ船で移動、
ほんの10分ほどで到着。

お昼は港の近くのお宅の台所を借りて、
サザエの炊き込みごはん、イカの天ぷらなどを
自分たちで作って食べるという趣向。

塩も醤油もいらない、
揚げたてカラリをサクサクといただく。
あぁ旨すぎる。

「いよいよ、日が暮れたらイカ漁に出港っすよ。
 やっぱ自分たちで釣って食べる、これがいちばん!」

イカ釣りを教えてくれる人が、私たちの服装を見て
呆れるように、
「イカは墨を吐きますから、
 汚れてもいいのを着てくださいね」

Y女史が、
「それならゴミ袋を着ちゃいましょうよ」

大きな黒いゴミ袋に3ヶ所穴を開け、
頭と腕を出せば
見事に簡易ジャンパーの出来上がり。

港に着いた。
黒ピカゴミ袋ジャンパー姿の集団を見て、
船長さんは驚くやら笑うやら。

イカ釣り船は港を出て、
暗い沖に向かってスピードを上げる。

遠くにイカ釣船がぽつんぽつんと浮かんでいる。
雲間にうっすら、月が見える。
ざぶんざぶんと波を越え、船は大きく小さく、
揺れる揺れる。

船が停まった。
明かりが海面を照らしている。

凧揚げの糸巻きのような、
イカ釣り用の釣り糸を渡される。
糸の先には重りがあり、その上30センチごとに
小魚を模した針が5本付いている。

糸を海底に向かって降ろしていく。
重りが海底に着いたら、両腕の長さほど手繰り、
あとは糸を上げ下げする。

イカは海中で上下に動く疑似餌に喰らいつくらしい。

さっそくY女史の糸に反応があった。
糸を手繰りに手繰ると、その先の針に白イカが!
それも2ハイ!

私の糸には何の反応も感じられない。
すると船長が、
「時々、糸を上げてみてください。
 イカはあまり暴れないので、
 ちょっとでも糸が重く感じたら上げてみてください」

そうか、竿で釣るのと違って、
糸の微妙な重さの変化を感じなければならないのか。
まったく、知らないことだらけだ。

私は糸を手繰り続けた。
すると、なんと私の針にも白イカが!
慌てて船の中に引き込み、
すでに船酔いでデロデロになっている人に
写真を撮ってもらった。

もうあとは入れ食い状態。
糸を手繰り、白イカの吐く墨を浴びる。
顔が真っ黒になっていく。

「1、2ハイ釣れたら、その場で食べてお終いかも」
なんて聞いていたのに、糸を降ろし糸を手繰り、
針の先の白イカをパッドに入れ続ける。

針に刺さったものの、足だけ残して逃げるイカもいる。
残った足、ゲソを食べてみた。

吸盤が唇に舌に口に吸い付いてくる。
食べる前に食べられているような、不思議な感触。

2時間ほど釣りに専念し、
「いやぁ、めちゃめちゃ大漁でしたねぇ」
という船長の声を、
ザブンザブンの波音とともに聞きながら帰港。

旅館に戻り、風呂上がりのビールとともに、
さばいてもらった白イカを口いっぱいにほうばった。

人生初のイカ釣りは、まさに海のように広く深く、
果てしない面白さだった。

竜宮城は羽田から1時間半ほどの、
意外と近いところにありました。

旨いぞ甘いぞ、釣りたて白イカ。
ありがとう、島の皆さん。
タイや白イカの舞う竜宮城、ご馳走さまでした。

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2016-10-02-SUN
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