magic
ライフ・イズ・マジック
種ありの人生と、種なしの人生と。


『炭水化物、いつもの半分ダイエット』


東京で暮らし始めたのは、学生寮だった。
大きな風呂があり、夜遅く入ると
寮長さんと一緒になることが多かった。

失礼ながら、その寮長さんの裸体を
今でも思い出してしまう。

細い人だったが、
ちょうどお腹の部分だけポッコリ出ていた。

私はまだ18歳で、瘠せていた。
お腹はぺったんこだった。

それゆえか、
寮長さんの腹だけ膨らんでいる体型が
恐ろしくさえ思えた。

今は若くガリガリ体型だが、
時が過ぎると寮長さんのようになってしまうよという、
人生の儚さのようなものまで感じてしまったのだ。

若いってすごいと思う。
この感性の繊細さ。

時は過ぎ、私はおじさんになった。
体型も、あの日の寮長さんのようになってしまった。
温泉に入って周りのおじさんを見てみれば、
寮長さん体型はちっとも珍しくない。

おじさんになってしまった私は、
もうお腹ぽっこりのおじさんたちを見ても
何も感じやしない。

先日、ウエストがきつくなったパンツを
履く方法というのを見た。

とても簡単で、ただ横に寝て履くというもの。
やってみると、確かにスルリと履ける。

そりゃそうだ、ぽっこりお腹も仰向けに寝れば
引っ込んでいる。
立ち上がると、ぽっこりお腹が突如出現、ははは。

人は小太りの方が長生きするという。
本当かどうか分からないが、
少なくとも幸せそうな体型ではないか。

私も立派なおじさんになった。
ぽっこりお腹で幸せそうでもある。
このままでいいような気もする。

だが一方で、一瞬でいいから
ぺったんこお腹の自分に会いたくなり、
何か良いダイエットはないかと考え、
炭水化物ダイエットが簡単そうかもなぁと結論付けた。

だいたい、このぽっこりお腹になったのは、
近所の定食屋さんのごはんが美味しく、
大盛りにしてもらい、
更にお代わりまでしていたせいではないか。

尊敬してやまない友人の、
「何かの栄養を抜くダイエットは
 必ず他に不都合が出る恐れが・・・」
という、いつもの説得力ある助言をいただき、
ついに『炭水化物、いつもの半分ダイエット』を
始めることにした。

3泊4日の船の仕事が入った。
当然だが、一度乗船してしまえば
ずっと船の中の生活である。

食事も朝、昼、晩、船の中で食べる。
乗船初日、出てきた食事は
炊き込みごはんに冷たい胡麻ダレうどんであった。

炊き込みごはんのおこげは香ばしく、
冷たい胡麻ダレうどんは
チュルチュルと喉を滑り降りてゆく。
あぁ、美味くて箸が止まらない。

出航したばかりの私の
『炭水化物、いつもの半分ダイエット』は、
はたしてどこの港に向かうのであろうか?
小デブ港? それともお腹ぺったんこ港?

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2016-08-28-SUN
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