magic
ライフ・イズ・マジック
種ありの人生と、種なしの人生と。


はじめにお断りしておきますが、
これは落語『短命』のパクリではありません。
リスペクトしてインスパイアーして、
現代風にアレンジし、
結果、つまらなくしたお噺であります。

ささ、お手柔らかに、どうぞどうぞ。

『長命』


芸人同士で飲み会をすると、
だいたいはその場にいない芸人の悪口となりますなぁ。

まちがっても、
「いやぁ、あの芸人は素晴らしいですよねぇ。
 しかも良い人だし」
なんて展開には絶対にならない。

ある師匠も言ってましたよ。
「だいたいさ、他の師匠のことをほめながら
 酒なんかのんじゃった日にゃぁ、悪酔いする」

それに、いいところだけを話してたら、
話は3分で終わります。
その点、悪口はいつまでも
尽きなかったりするもんでございます。

悪口がひとしきりすんだかと思えば、
「あの師匠がねぇ‥‥。
 まだ若かったよねぇ」

なんて、今度は実に不謹慎な話題へと
移行いたしまして、
「あの師匠も、意外と早かったねぇ」

「確かまだ70そこそこ、だったと思うよ。
 いい芸持ってたのにねぇ、人気者だったのにねぇ」

芸人は亡くなってから、ホメたたえ合う。

「天才なんていわれたあの師匠も、
 寿命は70くらい。
 まぁまぁ長生きみたいに思えるけど、
 実際にバリバリの現役だったのは
 せいぜい60歳くらいまでだったからなぁ」

「そうなんだよ、
 やっぱ天才とか秀才という人たちは
 意外と短命なんだよね」

「なんでだろうね?
 だって、若くして売れてさ。
 高級なところで高い酒のんで
 キレイな女の人にモテてさ」

「だから短命なんだよ」

「えぇ?
 だって高級な酒のんでモテて、
 人生サイコーじゃないですか?」

「だから、短命なんだよ。
 いいか、考えてごらんよ。
 若くして売れた、金はある、
 ガンガンのんでしまう。
 女性にモテまくる、
 どうだい、短命だろ?」

「えぇ?
 凡才で売れなくて、
 安い酒ばかりのんで、
 モテなくてストレスたまって、
 なら短命だと思うけど」

「違うんだよ。
 天才だから次々と良い芸をするでしょ。
 でも、そのための努力も半端ないんだよ。

 それにさ、なんでもうまくできちゃうから、
 その反動で不安も大きいんだよ。
 できなかったら、ウケなかったらどうしよう、
 なんて思うんだよ、きっと」

「そうなのかねぇ、確かにねぇ。
 でも、キレイな女の人にモテるんなら長生き、
 長命なんじゃないの?」

「それが今じゃ、ほら、
 現代はコンプライアンスの時代ですよ。
 いくらモテでも欲望のおもむくままに、
 なんてわけにはいかない、
 あぁもったいない、短命ですよ」

「そうかぁ、高い酒のんで気分よく酔っ払っても、
 目の前の美しい人はただ眺めるだけのお人形、
 一瞬の幻想、イリュージョンに過ぎない、
 あぁはかない人生、短命ですねぇ」

「だろ?
 だから、やれ天才、マルチな才能、
 なんて世間からモテはやされる芸人は
 意外と短命なのですよ」

「天才かぁ、マルチな才能かぁ、
 あ〜あ、俺は長命だ」

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2016-08-14-SUN
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