magic
ライフ・イズ・マジック
種ありの人生と、種なしの人生と。


『ギックリ腰を消すマジック』


恋は突然にやってくるらしいが、
ギックリ腰も突然にやってくる。

朝、靴下を履こうとして右足を持ち上げた瞬間、
右腰に鋭い痛みが走った。
唐突に、あのギックリ腰がやってきたのだ。

椅子からイタタタと立ち上がるも、
歩くたびに右腰に痛みが走る。

靴を履こうと前かがみになると、
「イタタ、あぶないです、
 イタタタ、あぶない、あぶないってば〜、
 イタタタタ〜」
そんな痛みが危険信号のように腰の一点に集まってくる。

あぁ、この痛みは何年ぶりだろう。
ひょっとすると10年ぶりだろうか。

そうそう、同じように蒸し暑かった10年前のあの日、
ギックリ腰は突然にやってきたのだ。

その夜は寝返りもうてない、
ベッドから起きることもままならなかった。

それでも、私は寝返りと起き上がる動作を繰り返した。
なんとしても、翌朝には起き上がらなければならない。

起きて、指定の列車に乗って
青森市までたどり着かなければならなかった。
青森市内のホテルで、我が業界では
営業と呼ばれている仕事があったのだ。

私は慎重にベッドから起き上がり、
痛みの走らない動作を確認しながら
ゆっくりとリュックを背負い、
東京駅へと向かった。

さすがに歩くのはしんどいので、タクシーで東京駅へ。
駅構内に足裏マッサージの店を発見し、
藁にもすがる思いで30分ほど揉んでもらった。

ギックリ腰になると体も弱まるが、
めちゃめちゃ弱気になるもの。

そんな時、
「えぇぇぇ、これから青森までぇ?
 大変ですねぇ、どうかご無事でいらしてくださいね」
なんて送り出してもらい、
単純な私は気力を蘇らせたのだった。
 
指定の席に座り、そっと腰を回してみた。
実は、頭を回すマジックは
腰もゆっくりと回ってないとうまくできないのだ。

椅子に浅く座り、腰をゆるゆると回していたら、
近くの席のおばさんに
ガン見されるやら不審がられるやら。

なんとか無事に青森市内のホテルに到着、
ショー会場をチェック。

私は誰にもギックリ腰を告げず、
努めて普通にふるまった。
ギックリ腰を告白した途端、
気力が萎えてしまうような気がしたのだ。

あれこれの準備もでき、いよいよ本番となり、
普通の段取り通りにショーは進行。
なんと、まったく問題なく
最後の人体浮遊術までできてしまった。

人体浮遊術とは、長テーブルに仰向けに寝て、
シーツのような布を掛けられたら
体を反転しながら布の中で腕立て
伏せをするという、すさまじく腰を酷使するマジック。

そんな劇痛必至のマジックを、
まるで痛みなくできてしまい、
あげく、終わると同時にギックリ腰は完治していたのだ。

そんなことを懐かしく思い出しながら、
「よしっ、今回も人体浮遊術マジックを決行して
 ギックリ腰を治そう」

そう固く決意しつつ、北海道へ旅立った。

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2016-06-26-SUN
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