MAGIC
ライフ・イズ・マジック
種ありの人生と、種なしの人生と。


『電車で新ネタどこへ行く』

マジシャンという職業は、
とても良いと思う。
具体的にどこがどう良いのかは
未だ分からないけれど、
とにかく良いと思う。

欠点は、
いつも新ネタを考えなければならないこと。
だが、そうそう簡単に新ネタを思いつくはずもなく、
いつもあぁだこうだと、ない知恵を絞っている。

小松菜、トマト、キュウリの中から
観客が自由に選んだ野菜を、
目隠しした相方が言い当てるというマジックを
考えたことがある。

タネを明かせば、僕が相方に、

「これが当たらないと困っちゃうなぁ、コマッチャウナ、
 こまっつな」

「なにを戸惑ってるんだ、とまとっているんだ、
 トマトってるんだ」

「なにを選んだか、急に分かってきます、
 キュウリ分かってきます」

などとダジャレで教えるというもの。

「これってマジックなの? コントじゃないの?」
などと批判の大嵐であったが、
僕としてはしてやったりの大傑作新ネタなのであった。

その後、長く新ネタを思いつかない日々が続いた。
完全にスランプ状態だったのである。

しかし最近、久しぶりに面白い新ネタを発見した。
「これは面白い、大傑作」
と思うものの、実際にステージでやってみないと
ウケるかどうかは分からないものだ。

まずは相方と段取りを打ち合わせしなければならない。
そう思いつつ仕事先に向かう電車に乗ると、
なんと相方も同じ電車に乗り合わせたではないか。

さっそく隣に座って
新ネタの段取りを話し合うことにした。
目的の駅までの30分間、
ネタの見せ方をあれこれ練習するのだ。

始めは静かに話していたものの、
次第に声は大きくなり、動作を交え、
まるでステージに立っているのと
同じようになっていった。

ふと気づくと、
前に座っていた老婦人が僕の前に立って、
「ふふふ、とっても面白そうなマジックねぇ。
 それって、どこかでおやりになるの?」
そう話しかけてきた。

僕はその瞬間、我に返って、
「あ、はい、
 年明けにテレビの『◯◯』でやる予定です。
 たぶん10日です」

「あら、そう。
 じゃ、がんばってくださいね」
老婦人はそう言い残して電車を降りていった。

実際のネタ、マジックはもちろんなく、
ただ身振り手振りでやっていたにもかかわらず、
老婦人には我々のマジックが見えたようだった。

実際にマジックを見せたわけではないのに、
面白そうなマジックだと分かるとは、
まさに幻想、これぞイリュージョンではないか。

期待の新ネタは年明け早々の10日に放送される予定だ。
ぜひ見ていただきたいのだが、
もし新ネタが見られない場合、
残念ながら編集の時にカットされたのであります。

※次回の更新は2016年1月10日(日)の予定です。
 みなさん良いお年をお迎えください。

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2015-12-20-SUN
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