MAGIC
ライフ・イズ・マジック
種ありの人生と、種なしの人生と。


『ここはどこ? 私は何してる?』

有り難いことに、
私には色んな仕事の依頼が飛び込んでくる。

ある時は高齢者向けの講演、
時には幼児のためのマジック・ショー。
そうそう、マジックはあまり年齢層を問わないのだ。

とはいえ、老人ホームと隣の幼稚園の
合同お楽しみ会に招かれた時は、
さすがに困ったものだ。

「本日は皆様方ご健勝でございまして、
 はいはい、
 みなちゃ〜ん、元気でちゅかぁ〜」

てな具合で、どうにも方向が定まらない。

今回の仕事は、早朝に羽田空港にたどり着くことから
始まった。
予定通りに羽田空港を飛び立って
1時間10分ほどで、ある空港に着いた。

空港で出迎えを受け、私を含めて8、9人が
1台の大型タクシーに同乗、
着いた先はワイナリーだった。

収穫時期は過ぎていたが、
美しいぶどう畑が広がっていて、
小高い丘に素敵な建物が見えた。

そう、今回の仕事はある地方を訪ね、
主に食の魅力を発掘することにあるらしい。

始めに依頼された時、
私はごく当たり前の質問をしてみた。

「で、どんなマジックをすればいい?」

答えは、

「いやいや、小石さん、
 別にマジックはしなくて大丈夫ですよ」

そうなのか、マジックをしないのは楽でいいのだが、
マジック以外で私に何を期待されているのかが
分からない。

それでも、なんだか面白そうな仕事だし、
二つ返事でOKしてしまったのだ。

さて、ワイナリーに着いたのは午前中なのだが、
早くもワインの試飲ができるらしい。

美味しそうなワインが、
小さなカップに注がれて各自に渡される。
4種類ほどのワインを飲み比べる。

皆さん口々に、

「あぁ、これはメルローのスッキリ感が良い感じね」
「こちらはとてもフルーティで美味しいわね」

などと感想をおっしゃっている。

赤ワインと白ワインの違いくらいなら分かる程度の
私は、ただワインを口に含み、

「ふむふむ、うん、あぁ、はぁ、なるほど」

などと、体裁を繕う。

「紹興酒の予約が、今年も間もなく始まります」

紹興酒に関しては若干の知識を持つ私は、
この言葉に激しく反応した。

「紹興酒のことなら、少し、分かるかも」

しかし、相当にアウェー感を感じていた私は慎重になり、

「待てよ、ワイナリーで紹興酒? 変だ」

と、声の方向を探った。

すると、声の主はボトルを見せながら、

「今年は、かなり良い出来だと思います」

そのボトルには『小公子』と書かれていた。

あぁ、危ないところだった。
ここで、

「紹興酒ならば、私はかなりウルサイですよ」

などとしゃしゃり出た日にゃぁ、
すぐさま羽田空港へと
強制送還されてしまうところだった。

ピンチをかろうじて切り抜け、
次の目的地へと向かった。
次も試飲らしく、それも牛乳の試飲であった。
さて、今度はどんな牛乳が登場するのか?

                  (つづく)

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2015-11-08-SUN
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