MAGIC
ライフ・イズ・マジック
種ありの人生と、種なしの人生と。


『ブラック小石の独白』

私はたぶん温厚な人間である。
いつもそうありたいと願う、
ホワイト小石なのだが、
たまにブラックな思いが頭をもたげてくる。

すると、以前にいそうろうしていた家のおじさんの
口癖を思い出す。
「ちぇっ、ちっくしょう、
 馬鹿にしやがって」

といっても、決して暗くも怖くもなく、
フーテンの寅さんの映画に出てくる
町工場のおっちゃんのような口調で、
酒を飲み飲み、
「ちぇっ、ちっくしょう、
 馬鹿にしやがって」

私もおっちゃんを真似て、せいぜい愚痴るとしよう。

コーヒーが運ばれてきた。
テーブルにコーヒー・カップが置かれて、
「コーヒーになります」

私は思わず心の中で毒づく。
「ちぇっ、ちっくしょう、
 馬鹿にしやがって」

おいおい、こちとらマジシャンだよ。
マジシャンに向かって、
「コーヒーになります」
なんて言われたら、
水が一瞬にしてコーヒーに変わってしまうマジックが
始まるのかと思ってしまうぜ。

しかし、
「コーヒーになります」
と言っているのに、飲み物はすでに
コーヒーになっているではないか。

だから、
「コーヒーです」
とか、
「まぎれもなく、コーヒーです」
とか、
「100%、コーヒーです」
などと言うべきだろう。

最近じゃコーヒーも紅茶も、
カレーもカツ丼も蕎麦も、
なんでもかんでも運ばれてきてから、
「カレーになりまーす」
「カツ丼になりまーす」
「鴨せいろになりまーす」

マジシャンもびっくりのマジックが
店のあちこちで披露されているように思えて、
落ち着かないじゃないか。
「ちぇっ、ちっくしょう、
 馬鹿にしやがって」

大股で歩くと、脳みそが元気になって
お利口さんになると聞いた。
私は、さっそく大股でウォーキングを開始した。

途中、ビルの大きなガラス窓に私の大股歩きが映った。
おいおい、こんな歩き方してると、
ものすごく馬鹿に見えるではないか。

いくら脳みそが元気になってお利口になっても、
見た目が馬鹿なのは困るじゃないか。
「ちぇっ、ちっくしょう、
 馬鹿にしやがって」

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2015-09-27-SUN
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