MAGIC
ライフ・イズ・マジック
種ありの人生と、種なしの人生と。


『お疲れさまでした〜!』

演芸番組の収録に行ってまいりました。
演芸番組は、そりゃもう、好きなのですよ。
自分がマジシャンだから、というのもありますが、
なんせ、収録時間が短くていいのですよ。

午後にスタジオ入り、これがまた、ありがたい。
やはり、お笑いですからね、
早朝に眠い目をこすりながら
笑ってくださいね、というのも辛い。

そうかといって、深夜にお笑いというのも大変。
そりゃぁ、お酒でも飲みながら笑いましょうというと
良さげではありますが、客席からヤジ、
それも放送禁止用語が聞こえてきたりして、
場が荒れたりする。

だから、午後にスタジオ入りしてというのが
実によろしいのでございます。

スタジオ入りして、まずは出演者同士の顔合わせ。
「本日の出演者の皆さんです。
 まずは漫才の◯◯さん〜。
 コントの◯◯さん〜。
 マジックの◯◯さん〜。
 ◯◯亭◯◯師匠〜」
てな具合。

それぞれに、
「よっ、解散間近」
「今日は笑いやすいネタでお願いします」
「出たっ! 人をダマして飯を食ってる極悪人」
「まだ生きてます、レジェンド落語家」
などと、いちいち辛辣なツッコミが入ります。

まぁ、これが準備運動のようなもの。
なんせお笑いですから、
芸人たるもの早めに気持ちを高揚させないと
いけないのであります。

次に、衣装に着替えてリハーサル。
リハーサルといっても、
漫才もコントも落語も高座に上がって
二言三言しゃべるだけで、
「はいっ、OKです」

本番までの間、
「あの師匠だけどさぁ、大丈夫なのかねぇ」
「来年の春に、地方で一席お願いしたいなぁって
 思ってるんだけどね、
 ひょっとするとってことがあるとねぇ‥‥」

「春なら大丈夫なんじゃないの?
 秋とかいうと、アブナイかもしんないけどさ。
 春なら、まだ生きてるよ、絶対」
などと、不謹慎な話題で盛り上がったり。

「ほら、漫才のあれの片方が倒れちゃってさぁ。
 それで、だいぶ前に倒れちゃった漫才の元気な方と
 組んで。
 つまりさ、相方が倒れちゃった同士で組んで
 漫才やってるんだよ」

「真打になったばかりの、あの人さぁ。
 なんと、師匠をしくじってさ、
 それで別の師匠の弟子にして
 もらったんだよ。
 屋号も変わってね。
 で、本人は、
 『この度、電撃移籍をいたしました』なんて
 言ってんだよ」
という、業界の裏話を交換しあったり。

そうこうしているうちに本番となりまして、
各人6、7分の持ち時間なので、
全体でも1時間前後で収録終了となるのでございます。

やれやれ、今日も効率の良い収録だったなぁと思いながら、
僕はある漫才師のことを思い出してしまった。

彼らはかつて、斬新な漫才で売れに売れていた。
しかし、ピークはあっという間に過ぎてしまい、
ある日の収録では新ネタをかけていた。

ところが、ぎこちないギャグばかりでウケなかった。
観客ももう、どう反応していいのか戸惑うばかり。
長い長い、苦しい苦しい、笑いのない6分間。

彼らはその後、相次いで旅立ってしまった。

誰もいなくなった高座に、今は消えてしまった芸人さん
たちの姿が次々と浮かんでは消えた。

遠くから誰かの、
「お疲れさまでした〜!」
の声が聞こえた。

このページへの感想などは、メールの表題に
「マジックを読んで」と書いて、
postman@1101.comに送ってください。

2015-09-20-SUN
BACK
戻る