MAGIC
ライフ・イズ・マジック
種ありの人生と、種なしの人生と。


『カメラの前で立ちつくしていた日』

久しぶりに、長時間の収録があった。
お昼をちょいと過ぎた頃にスタジオに入り、
収録が終わったのは午前0時近くになっていた。
つまりは12時間、スタジオか楽屋にいたことになる。

今回の収録はマジシャンの手わざ、
それも超絶技巧の手わざを競う番組であった。

となると、どう考えても
僕が呼ばれることはなかったはずだったが、
相方が出るので
ついでに出演させてもらうことになったようだ。

昼過ぎにスタジオ入りし、まずは衣装に着替えてメイク、
続いてリハーサルという予定。
しかし、スタジオの準備に時間がかかったようで、
ぼんやりと楽屋で待機するのみ。

午後3時過ぎ、やっとリハーサルが始まった。
マジシャンが6人、それぞれが難しい手わざを4種類以上、
実際に演じて見せる。

その後、あれこれの修正が加えられ、スタッフの皆さんが
撮り方などを再チェックする。
マジシャンたちも、手わざの細かい修正を繰り返す。

時間はあっという間に過ぎ、午後7時に客入れが始まった。
番組のホスト役の俳優さん、進行のアナウンサーさん、
アイドル・グループたちも揃って、
いよいよ本番が始まった。

リハーサルには、ホスト役の俳優さんもアイドルたちも
参加しなかった。
スタッフの皆さんが首から
俳優さんやアイドルたちの名前が書かれたボードを下げ、
彼らになりきってマジシャンと対峙するのだ。

それがいざ本番となると、
目の前にいるのは本物の俳優さん、
居並ぶ本物のアイドルたち。
マジシャンたちは、
どうしても緊張を隠しきれないようだ。

台本には、我々は登場して
まず『あったま・ぐるぐる』をやると書かれていた。
その後は相方だけが手わざを披露、
僕は横で何もしないで立っているだけ。

こんな楽な役でいいのだろうかと思ったが、
しゃべらないでただ立っているのは意外と大変だった。

それでも時々、マジックを食い入るように見ている
アイドルたちがあれこれ言ってくるので、
ついつい、
「こらこら、マジシャンに質問しちゃダメっ」
などと口を出してしまう。

マジシャンたちは難しい手わざにもかかわらず、
ほとんどNGを出さなかった。
それでも収録は時間がかかり、
フィナーレを撮り始めたのは午後11時近かった。

ホストの俳優さんが、
「ナポレオンズさん、今日はいかがでしたか?」
と訊いてきたので、僕は、
「とにかく、『あったま・ぐるぐる』だけは
 編集でカットしないでくださ〜い!」
と叫んだ。

だって、僕が映るとしたら、その部分だけなのだから。
そのためだけに、僕は12時間、
ただ立ちつくしていたのだから。

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2015-09-13-SUN
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