MAGIC
ライフ・イズ・マジック
種ありの人生と、種なしの人生と。


『現代芸人幸福論』

落語家 「幸福?
 幸福なんて、落語家になった瞬間に
 諦めました(笑)。

 ダメだよ、芸人は幸福になっちゃ。
 芸人は幸福になると
 途端につまらなくなっっちゃう」
マジシャン 「えぇぇ? そうなんですか?
 でも、幸福そうな師匠方は
 いっぱいいらっしゃるじゃ
 ないですか?」
落語家 「昔はたくさんいましたよ。
 名人、人気者、爆笑王なんていう
 幸福な師匠方が。

 昔はさぁ、
 弟子たちも幸福だったんですよ。
 師匠んところに入門するでしょ。
 そうすっと、あとは、
 『やれやれ、
  これで地道に修業すれば、
  いつかおいらも名人だぁ』
 てな具合に、
 ずいぶんとお気楽に
 考えていたもんですよ。

 どこかの師匠んところに入門すれば、
 いつか名人に、面白い落語家だって、
 人気者の落語家にだってなれる
 もんだと、心底思ってたもんだよ。

 とにかく、師匠について行けば
 幸福な人生を送れるもんだと、
 固く信じていたんだね。

 最近になって、
 どうもそれが
 大きな間違いだと気付いた(笑)。
 遅すぎるよなぁ(笑)。」
マジシャン 「なんだか、
 昔の結婚幸福説みたいですね。

 なんの根拠もなしに、
 とにかく結婚さえすれば
 幸福になれる、みたいな」
落語家 「そうそう、
 幸福への道は
 いく筋もあるんだってね。

 サラリーマンだって、
 大きな会社に入って、
 きれいな人と結婚して、出世して、
 大きな家を建てて、
 そうすりゃ幸福な人生
 間違いなしってね」
お笑い芸人 「へぇぇ、そうなんすか。
 僕は、始めは漫才とか
 やってたんすけど、
 売れるとか考えなかったっすねぇ。

 師匠もいなけりゃ、
 なりたい人もないんですよ。
 ただ、面白いって思えるもんを
 やってるだけで、
 それで結果的に売れれば
 ラッキーだなって」
落語家 「今のお弟子さんたちも、
 同じなのかねぇ。
 見てるとさ、
 妙に冷めてるっていうか、
 入門はしたけれど、
 将来はどうなるか分からないって
 顔してるんだよ。

 どうがんばってみても
 師匠のようにはなれない、
 名人なんて夢のまた夢。
 面白い落語家にも人気者の落語家にも
 なれないだろうなんて、
 始めっから諦めてるみたいなんだよ」
マジシャン 「目指すところがあるのか、
 ないのかって感じですよね。

 マジシャンも、
 昔は世界大会に出て優勝して、
 ラスベガスなんかでショーをして、
 プール付きの家に住んで、
 美女に囲まれてライオンとか虎とかと
 幸福に暮らすみたいな、
 アホらしい夢を抱いてた(笑)」
落語家 「今じゃそんなマジシャン、
 いないだろ?
 海外なんて目指さない、
 テレビに出たいとも思わない。
 好きなマジックを
 好きなようにやってりゃ、
 幸福だって顔してる(笑)」
お笑い芸人 「ほどほどの芸人になって、
 ほどほど食えて、
 そこそこ楽しく暮らせれば、
 それが芸人の幸福だと
 僕は思ってます(笑)」
落語家

「ひょっとすると、
 正解かもしれない(笑)。

 そういやぁ、
 こないだ聞いた話だけれども、
 日本人は昔から
 小さくすることは得意なんだってね。

 短歌、俳句にしても、
 茶の湯にしても、
 なんだって小さくしてこそが美、
 みたいな。

 幸福も、以前は大きく、
 もっと大きく、
 なんて望んでいたけど、
 大きくするのは
 他の国の人に任せて(笑)、
 芸人も
 より小さい幸福を目指すってのが
 正解かもね」 

マジシャン 「そういえば、僕も最近は
 小ネタばかりやってます(笑)」
落語家&
お笑い芸人
「それは間違っていると思う(笑)」

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2015-08-09-SUN
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