MAGIC
ライフ・イズ・マジック
種ありの人生と、種なしの人生と。


『梅雨時ぶつぶつ』

緊急の白内障手術を受けてから、
早いものでもう20日以上が過ぎた。
順調に回復中で、ありがたいことだなぁと
心より絶賛感謝中の私であります。

手術は大成功で回復も順調そのものなのだが、
未だ瞳孔を広げるための点眼薬アレルギーが治りきらず、
その治療のための定期通院を余儀なくされている。

手術前に、瞳孔を広げる点眼薬を
何度かさしてもらう。
点眼薬アレルギーのない人がほとんどらしく、
他の患者さんたちはまったく変化がないままだ。

私ひとりだけ激しくアレルギー反応が出て、
両まぶたが腫れて腫れて。
私の涼しい瞳は両まぶたに塞がれてしまい、
あわれ1本の線のようになってしまった。
教科書で見た埴輪にそっくりなのであった。

そんなアレルギー症状も
ここ数日ですっかり解消され、次の診察で、
「はい、もうアレルギーも完治しましたね」
となり、めでたくクリニックご卒業となるであろうと
目論んでいる。

そんな今の時期に、思い出すことがある。
手術前に受けた注射と点滴のことである。
当たり前だが、ナースさんは何のためらいも
なく針を私の両腕に刺した。

人の身体に注射、針を刺すという行為は
大変だと思う。
きっと何度も何度も練習を重ねるのだろう。
ただ、いくら練習をしても
本当に初めて人の身体に針を刺すとなれば、
相当に緊張するに違いない。

観客の首に剣を刺すというマジックがある。
題して『美女のブスブス』という怪しいマジック。
もちろん、実際に刺すわけではないのだが、
それでも初めての時は緊張したものだ。

いざ剣を刺す前に、
「もし失敗して剣が本当に
 ブスブスと刺さってしまっても安心してください。
 必ず謝りますから」
などと、無責任かつお気楽な言い訳を
してはいるのだが。

それが注射となれば、
「針が曲がったり折れたりして痛くても安心してね。
 必ず謝るから、ウフフ」
なんてわけにはいかないだろう。

ナースさんはベテランらしく、
何のためらいもなくスッと私の両腕に針を刺すのだった。
私はそのプロの仕事っぷりに心底、感心したものだ。

次に、目の手術というものについて
考えを巡らせていた。
初めて眼球にメスを入れる
(実際はメスではないかもしれないが)時は、
どういう心境なのだろう。

更に濁った水晶体を吸い出し、
人工の水晶体を入れるなんて、
私だったら何度練習してもできはしないだろう。
あぁマジシャンで良かったと、
手術を待ちながら奇妙な感慨にふけったものだ。

落語に出てくる呑んべぇの患者が、
お医者様に尋ねる。
「先生、お酒は呑んでもいいですか?」
お医者様は応えて、
「そうねぇ、1合くらいなら、いいでしょう」

呑んべぇ患者は別の医院を訪ねて、
同じことを訊く。
先生は応えて、
「1合くらいなら、いいでしょう」

更にもう1軒、医院を訪ねて、
「1合くらいなら、いいでしょう」
呑んべぇ患者はその夜、
3合を呑んでしまったというお噺。

さて、私もそろそろアルコールを
解禁したいところだ。
いきなり3合は呑まないにしても、
ビール1缶、ワインを2、3杯くらいなら、
いいですよね、院長先生?

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2015-06-28-SUN
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