MAGIC
ライフ・イズ・マジック
種ありの人生と、種なしの人生と。


『 1977年 』

SNSに、誰かが載せてくれた写真である。



マジシャンとしてプロ・デビューする際、
必要に迫られて
新宿の写真館で撮ってもらったものだ。

宣材写真といって、日本各地の芸能プロダクションに、
『こんなマジシャンがデビューしました。
 どうか使ってみてください』
と、名刺代わりに配布するものであった。

向かって左側の男、1977年頃の私であります。
右側の男は、私の知らない人です(笑)。

当時のマジシャンの宣材写真といえば、
分かりやすいように
マジックの道具とともに撮るのが普通だった。
自分がどのようなマジシャンなのか、
どんなマジックを得意としているのか、
とにかく分かりやすい写真にするのが常だったのだ。

だが、私は若かった。
「どんなマジックをやるかとかは
 文字でいいんじゃないの?
 ハトとかウサギと一緒だなんて、カッコ悪いよ」

実のところハトも飼ってはいたが、
1羽は体が弱くて羽ばたかず、
もう1羽は訓練不足で指に止まらなかった
という事情もあったのだが。

当時はフォーク・ソング全盛で、
色んなフォーク歌手やグループが人気を競っていた。

彼らはフォーク・ギターを持っていたりはしたが、
殊更にギターを強調などしてはいなかった。
彼らは皆精一杯カッコつけて、
なぜかシリアスな表情で写っていたのだ。

そんなレコード・ジャケットのフォーク・シンガーに、
私は激しく感化されていたに違いない。

当時、メジャーな業界誌があった。
様々な歌手、タレント、芸人などを紹介する、
かなり分厚い本だった。

私たちのこの写真も掲載されたが、
やはり現実は厳しかった。
「なんなの、これ?
 これって、マジシャンなの?
 で、いったいどんなマジックやるの?」

結局、仕事などまるで来なかった。
「だろ?
 だからさぁ、ネタをちゃんと見せなきゃダメなんだよ。
 なんでも、どんなマジックもできますよってのが
 分かるようにさ、持ってるネタを全部載せるんだよ」

新しい宣材写真を撮りなおすことになった。
私の頭の上にはハトが止まり、
両手にマジック道具を目一杯持ち、
箱ネタを背景にしてニャへーみたいな顔で写った。

ようやく仕事が来るようになった。

私がなくしてしまった1977年当時の写真を、
誰かがどこかで見つけ出し、SNSに投稿してくれた。
お陰さまで、久しぶりに過去の自分と
会えたような気がする。

現実という引き波にさらわれて、
どこかに消えてしまった私の生意気が、
鮮やかに写っている。
今の私のなかに、あの頃の生意気は
まだ残っているのだろうか。

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2015-05-24-SUN
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