MAGIC
ライフ・イズ・マジック
種ありの人生と、種なしの人生と。


『映画とライブとビストロ』

映画を観に行った。
主役のイケメン服飾デザイナーが言うには、
「いきなりデザインはしない。
 まず、美術館とかコンサートとか、
 美しいものを観に行くのさ。

 美しいもの、美をシャワーのように浴びて、
 自分の中に浸み込ませる。
 そうして、中から湧き出てくるものを
 デザインするのさ」

そうか、そうだったのか。
私はいきなりネタを考えようとするから、
ダメだったんだ。

よし、なにか美しいものを観に行こうと原宿に向かい、
元宝塚の美しい歌手のライブ会場にたどり着いた。

元宝塚というから洋楽だと思っていたら、
幕開けは着物姿で演歌を歌うのであった。
その後はドレスやワンピースに着替えて
和洋の名曲を歌う、歌う、歌う。

「好きな歌を好きなだけ、
 好きなように歌いますよ〜!」
良い意味で勝手気まま、
わがまま放題に歌い踊るのであった。

そうか、そうだったのか。
私はまるで勘違いしていたのだ。
「必死にアイデアを巡らし、観客のニーズに応え、
 流行のマジックを演じなくてはならない」
なんて考えていたのだ。

だが、観客はきっとそんな小賢しいパフォーマンスなど
観たくなんかないのだろう。
その証拠に、観客は彼女が嬉々として歌い、
喜びを爆発させている姿を
うっとりと見つめているではないか。

「わたしね、アサリとかハマグリのワイン蒸しが
 大好きなのね。
 ふふふ、すっごく冷えた白ワインをね、
 呑んじゃうのね。
 ふふふ、美味しいのよ〜!」

彼女のトークは、歌とまるで関係ない話ばかりなのだが、
それもまた彼女の奔放な性格を思わせて微笑ましい。
まさに、たくまざる自然のユーモア。

ショーはあっという間に終演となり、
私は渋谷方面に歩きながら、
「ふふふ、アサリやハマグリのワイン蒸し、ふふふ」
と、ひとりごちていた。

渋谷にビストロがあったことを思い出したが、
時間はまだ午後3時、店は開いてないだろう。
それでも、私の足はビストロ方面に歩を進め続けた。

幸運にも、ビストロは開いていた。
私はカウンター席に座り、
ハマグリのワイン蒸しと白ワインを注文した。

ハマグリのワイン蒸しは、なんだか春の匂いがした。
冷たい白ワインが、春の香りとともに
喉を滑り降りていった。

美味しさの秘訣を尋ねると、店主曰く、
「あらあら、美味しいマジックのタネを
 訊いちゃいけませんよ。
 秘密、ひ・み・つ、ですよ」

そうか、そうですよね。

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2015-03-29-SUN
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