MAGIC
ライフ・イズ・マジック
種ありの人生と、種なしの人生と。


『新・日常ぶつぶつ』

< 一杯だけ >

友人と居酒屋で呑んでいた。
ふたりでうだうだと話していると、
店主が、
「あのね、これね、俺のおごりだから」
と、旨そうな酒を出してくれた。

「俺ね、好きなんだよなぁ。
 あんたのマジックというか、芸風がさ」

友人は、
「ちぇっ、いいよなぁ芸人はさぁ」
と羨ましがる。

こんな時、私はいつも、
「親父さん、ありがとう。
 でもね、今はまだ現役で
 仕事もしてますよ。
 だから、自分の呑む分は
 なんとか払えます。

 でも、将来、私がすっかり落ちぶれて
 この店の暖簾をくぐった時、
 その時に、一杯だけおごってくれませんか」
と思う。

だが、もちろんこの場でそんなことは言わない、
言えやしない。

「おじさん、おいしいねぇ、この酒。
 うんうん、ありがとう」
やっぱり、芸人やってて良かったかな。


< そこで、一句 >

『 あの人の 傍にいて 白き息 』

暦の上では春だけれど、
まだ凍えるように寒い日に詠んでみた。

『 帰り道 吐息をひとつ 影法師 』

今日の出来はまぁまぁだったなと、
ひと息ついて帰ります。


< ぼんやり生きよう >

ショーの中で、
お客さんに手伝ってもらうマジックがある。
客席からひとりを選び、ステージに上がってもらう。

「ほら、見てくださいよ。
 こんなに大勢のお客様の中から、
 貴方が選ばれたのには
 わけがあります。
 貴方がいちばん、ぼんやりしてるから」

冗談でなく、人間、少しくらい
ぼんやりしている方が生きやすいと思う。
何も知らない方がシアワセなこともある、とも思う。


< なかなかっすねぇ >

映画『晴天の霹靂』に、忘れがたいセリフがある。

主人公の晴夫が、バーテン仲間と語り合うシーン。

仲間「で、晴夫さんのとこは?」
晴夫「お袋は俺を産んで、家を出てったらしいよ」
仲間「へぇぇ、なかなかっすねぇ」
晴夫「なかなかだろう」

晴夫は自らの境遇を明るく吐露する。
それに応えて、仲間も明るく反応する。
「へぇぇ、なかなかっすねぇ」

私も、仲間とこんな風に語り合いたいものだ。
「最近、マジックがうまくいかないんだよ」
「へぇぇ、なかなかっすねぇ」
「なかなかだろう」

「このあいだ、ウケなかったんだよ」
「へぇぇ、なかなかっすねぇ」
「なかなかだろう」

あまり噛み合ってないけれど、
なんだかいいと思う。

時に辛くても、時に哀しくても、
「いやはや、人生、なかなかっすねぇ」

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2015-03-01-SUN
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