MAGIC
ライフ・イズ・マジック
種ありの人生と、種なしの人生と。

今月は寄席への出演が多かった。
楽屋入りすると、師匠が、

「お前さんは、変わらないねぇ。
 あたしは、もうすぐ極楽亭と地獄亭を
 掛け持ちするんだよ。
 へへへ」

師匠の青白い顔に、
僕は小さく笑い返すしかなかった。
スピーカーから、漫才が聞こえてきた。

『介護亭へようこそ』

ナポ 2015年、
ナポとレオンの初漫才でございます。
どうぞよろしくお願いします。
レオン 思い返せば、2014年は
ロクなもんじゃなかったですね。
ナポ そうだね。
昨年は漫才のウケがイマイチだったんで、
ふたりで反省会をやりましたよ。
僕が悪かったのか、
こいつ、レオンが悪かったのかってね。
レオン 終いには大げんかになりましたが、
今、やっと結論が出ました。
2014年は、客が悪かった。
ナポ おいおい、
お客さんのせいにしちゃダメでしょ。
それに、
去年も来ていただいているお客様も
多いんだから。
レオン そうです、
ひとつ、
また年をくったお客様ばっかり。
ナポ 失礼なこと言っちゃいけませんよ。
確かに、日本は
高齢化社会ではありますけどね。
我が業界だって
高齢化してるんですから。
レオン そうそう、でも大丈夫です。
師匠たちもご高齢ですが、
まだ息をしています。
ナポ 当たり前だよ。
師匠たちはお元気なんですから。
レオン でも、一応、生存確認しとかないと。
ナポ だから、大丈夫だってば。

確かにね、
以前は楽屋で酒呑んでた師匠が、
今じゃ飲むのは薬とか
サプリですからね。
以前は芸人といえば
『呑む・打つ・買う』でしたが。
レオン 今じゃ
『薬を飲む・点滴を打つ・お墓を買う』
です。
ナポ かの談志師匠は、

『来るかどうか分からない・
 来ても高座に上がるかどうか
 分からない・高座に上がっても
 落語をやるかどうか分からない』

なんて伝説を残しましたが。
レオン 今の師匠や演芸の先生たちは、

『体調が悪くて、
 来るかどうか分からない・
 体力がなくて、
 高座に上がれるかどうか分からない・
 ネタを忘れちゃってて、
 噺が続くかどうか分からない』

だもんね。
ナポ そこまでひどくはないだろう。
レオン ある師匠は
毎日のように寄席に来るけど、
高座には上がりませんね。
もう、前座たちに
ご飯やお茶の世話をしてもらってるだけ。
前座に介護してもらいに来ている。
ここは寄席という名の
介護施設だと思ってる。
ナポ 思ってませんよ。
それに、
ちゃんと高座に上がってますよ。
レオン そのうち、前座や弟子たちは、
介護士の資格を持たないと
いけなくなったりしてね。
落語は前座で、介護は真打、なんてね。

こないだまで、
「師匠、そろそろ出番です」
なんて言ってたのに、
「師匠、そろそろお薬の時間です」
なんてね。
ナポ 本当に、うるわしい楽屋風景ですよ。
レオン そのうち、お役所からも
視察に来るかもしれません。
ナポ 来ない、来ませんよ。
楽屋は別に
介護の現場じゃないんですから。
レオン でも、お年寄りに優しい現場ですよ。
なんせ、寒くないように
セントラル・ヒーティング完備ですから。
ナポ セントラル・ヒーティング?
そんなの、楽屋にあったかなぁ。
レオン ありますよ。
ちゃんと楽屋の真ん中に、
火鉢が置いてあります。
ナポ 火鉢かよ。
レオン それに、床暖房も入ってます。
ナポ 床暖房?
どうせ、使い捨てカイロが
座布団に貼ってある、てなことだろ?
レオン 正解です!
ナポ もう、いいよ。
お後がよろしいようで。
ありがとうございました〜!

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2015-018-SUN
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