MAGIC
ライフ・イズ・マジック
種ありの人生と、種なしの人生と。


『電話しようかな』

私の携帯は、未だガラケーである。
先日、若者に、
「なぜ、スマホじゃないっすかぁ?
 みんな、スマホっすよ」

私は、
「みんなスマホだから、
 おいらはガラケーなんだよ。
 みんな同じって、なんだか気持ち悪いんだよ」

彼は少し驚いたような顔を再びスマホの画面に戻し、
しばらく帰ってこなかった。

こうなのだ、スマホ族は皆、議論の途中でもすぐに
画面に戻ってしまう。
私に言わせれば、皆、スマホ引きこもり。

私だってソーシャル・ネットワーク・サービス、
略してSNSはやっている。
ただし、携帯ではなくパソコンでやっている。
従って、メッセージ等も家に帰ってから
チェックしている。
急ぎのメッセージに即答はできないのだ。

美容室のオーナー、Vさんが言う。
「仕事先の人間が、何でもSNSのメッセージで
 用件を伝えてくるんですよ。
 これって、おかしいと思いませんか?

 僕はスタッフに頼んでSNSに名前だけ登録しましたよ。
 で、あまりチェックもしないんですよ。
 それなのに、なんでメッセージで
 仕事上の用件を伝えてくるの?
 だいたい、仕事の用件ですよ。
 それを、SNSのメッセージで伝えてくるって変ですよ」

若者に、
「メールって、何のためにあるんすか?」
そう聞かれたことがある。
どうやら、昨今はラ◯ンなるもので
メールも電話もタダでできるらしい。
だから、彼らは電話もメールも
全部ラ◯ンで済ませているのだ。

だが、私は祖父母から繰り返し聞いた有り難い言葉を
忘れられないでいる。
「いいかい、よく覚えておくんだよ。
 タダより高いもんは、ないんだよ」

以前、
「FAXって何のためにあるんすか?」
と聞かれたこともある。

パソコンや携帯でメールができるようになり、
色んなことを伝えられるようになった。
以来、FAXの出番は相当に減ったのは事実だ。

私は、FAXが送られてくる時の、あのノイズが好きだ。
なんだか、懸命に用件を伝えてくれているように感じる。
それに、迷惑メールはあっても迷惑FAXというのは
なかったように思う。

オレオレ詐欺の被害が少しも減らないと聞く。
皆、故郷の父母や家族と連絡し合っているのだろうか。

「お母さんとは?
 あぁ、メールでやりとりしてますよ。
 だって、お母さん、SNS、やってないっすから。
 超面倒っすけど」
そんな若者が多い。

私は思う。
「母さん、オレだよオレ。
 あのさぁ、会社の金、使い込んじゃってさ。
 だから、200万・・・」
親たちは、肉声に弱いのだ。

私は言いたい。
「いいかい、メッセージなんかじゃダメなんだよ。
 仕方ないと我慢してるけど、メールでもダメなんだよ。
 電話しろよ。
 生の声、いつも聞かせろよ。

 どうせ、めったに会わないんだろ?
 だったら、せめて声を、生の声を聞かせろよ。
 メッセージやメールより、あんたの声を聞かせろよ」

ダマされてしまった親たちのうちの多くは、
生の声にダマされたに違いない。
急に声が聞けて嬉しくて、つい疑うことを忘れたのだ。

私も、このところ故郷の親に電話をしていない。
今夜あたり、電話してみようかな。
なんだか恥ずかしい気もするけれど、
電話してみようかな。

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2014-08-03-SUN
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