MAGIC
ライフ・イズ・マジック
種ありの人生と、種なしの人生と。


『高所恐怖症』

私は、山里に生まれ育ちました。
高校を卒業の後、都会暮らしを始めたのです。
田舎から都会に出てきた者には、
見るもの聞くもの、すべてが刺激的でした。
なにせ、古里では電車にすら
乗ったことがなかったのですから。

始めは、学生寮に住まいを得ました。
先輩たちが大勢いて、酒と煙草の洗礼を受けました。
いや、先輩たちのせい、というわけではありません。
そんな洗礼など、まったく無視する学生も
少なからずいたのですから。
ただ、私が誘惑にあっさりと負けただけなのです。

私は酒に弱く、ニコチンにも弱いのでした。
たちまち溺れて、毎日のように酔いました。
本数も増えるばかりでした。
そうなると、お金がかかります。

先輩たちによれば、
「そんなのは、パチンコで稼ぐのさ」
先輩に連れられてパチンコ、
競馬などに通うことになりました。
いえいえ、これまた先輩が悪いわけではありません。
ただ、私が身の程知らずだっただけなのです。

始めは、確かに煙草を買わずに済みました。
パチンコの景品でたんまり手に入れ、
先輩たちに安く売るほどでした。
競馬だって、そこそこ稼げたのです。
ですが、そのうち負けることが多くなりました。

パチンコや競馬が悪いわけでもないのです。
ただ、私が甘かったのです。
自堕落だったのです。

好きなうちは、パチンコも競馬も
愉快でならない遊びでした。
だんだんと、儲けるより楽しみが優先したりします。
ですが、楽しんで勝てるほど甘くはないのでしょう。

また、負けるから面白い面もあります。
負けるから熱くなり、勝てばより高揚するのでしょう。

だらだらと続けていると、
いつの間にか負けが込んできました。
そうなると、落ちるのが、早いです。
手持ちの金、といっても親からの仕送り、
そいつを使います。
負けては、
「辞書を買うので」
「参考書が必要で」
「自動車の免許を取りたい」
辞書、参考書代、免許代が消えていきます。

しかし、私は借金だけはしませんでした。

親は借金にまつわる苦々しい経験があり、
私に常に命じていたのです。
「借金だけは、絶対にするな」
ただ、それゆえに親のか細いすねをかじることに
なってしまったのですが。

アパートの家賃が払えないこともありました。
仕方なく、夜逃げ同然で出ることになりました。
より家賃の安いアパートへと引っ越すのです。
それを繰り返していると、住所変更も面倒になりました。
すると、親は息子の住所が分からなくなりました。
私は一時、行方不明者になったのでした。

                  ( つづく )

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2014-05-11-SUN
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