MAGIC
ライフ・イズ・マジック
種ありの人生と、種なしの人生と。



『僕の好きなもの』

僕は故郷が好きだ。
僕が生まれ育った故郷は、なにもない山里。
今はスーパーや喫茶店、コンビニもあるけれど、
まだ子供の頃に見ていた景色がたっぷりと残っている。
夏の間泳いだり魚を穫って遊んだ川も、
昔のままの清流だ。

通った小学校はさすがに今はないが、
中学校はそのまま同じ場所に同じようにある。
中学校は家の近くにあった。
だが、中学校と家の間に川があり、
遠くの橋を渡らなければならなかった。

それで、寝坊して遅れてしまうと
川の浅いところを歩いて渡ったものだ。
つまり、ショート・カット。
靴と靴下を脱いでカバンに入れ、
ズボンをたくし上げて渡るのだ。
川の途中で転んで水浸しになるのもしょっちゅうだった、
僕の教科書は水に濡れ、厚さが3倍ほどにふやけた。
「こらっ、大切な教科書がぼろぼろじゃないか。
 ちゃんと早起きして、橋を渡りなさい」

今なら、
「川はとても危険です。
 川を渡ったりして溺れて亡くなったら、
 学校の責任になってしまいます。
 だから、川を渡ってはいけません」
なんて指導されるのだろうか。

僕の先生は、溺れる危険性よりも
教科書が濡れてダメになると叱った。
子供たちは川で泳いで遊んでいて、
先生は子供が溺れるなんて想像もできなかったのだろう。
先生も生徒も、ともにたくましかったのだ。

今では、新たに通学用の橋ができていて、
浅瀬を渡る必要もなくなった。
それでも、夏になると制服のズボンを巻き上げて
川を渡る生徒を見かける。
まるで昔の僕を見ているような気になる。

ずいぶんと時が流れたのに、
まるで変わらない僕の故郷。
僕はそんな故郷が好きなのだ。

僕は老人が好きだ。
実は、嫌いな老人も周辺に多く存在する。
彼らは我が身だけが大事とばかりに、
権利を声高に主張する。

すっかり年老いたのに、
タレントのマネージャーを務めている人がいる。
彼はいつも人の背後からぬぅっと顔を出し、
「まだ生きてるよ〜、へっへっへ。
 死んだと思ったぁ?
 生きてるからね〜」
などと、にんまりと笑うのだ。
確かに見た目は老人になられたが、
心持ちはまるで劣化などしていないのだ。
老化イコール劣化ではないのだ。

僕も、彼のような老人になりたいものだ。

小沢昭一さんが好きだった。
まさに、僕の理想の老人像。
永六輔さんが言っていた。
「小沢昭一さんは天国にはいない。
 小沢昭一さんは草葉の陰にいて、
 じっとこちらを見ている」
本当に、そんなお姿が目に浮かぶ。

永六輔さんも、
「この間、乗っていたタクシーが事故を起こして、
 あちこちを打撲。
 そうしたら、なぜか滑舌が良くなって、
 しゃべりやすくなったんですよ。
 やっぱり、昔のものは叩くと直るんですよ、
 うふふふ」
などと、素敵なことをおっしゃるのだ。

僕はワインが好きだ。
赤でもロゼでも、白でも、なんでもござれだ。
ワインは美味しい。
いただいたワインならば、もっと美味しい。
赤でもロゼでも、白でも、なんでもかまわない。

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2014-02-02-SUN
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