MAGIC
ライフ・イズ・マジック
種ありの人生と、種なしの人生と。



『小は大を兼ねる!?』

三遊亭小遊三師匠に尋ねられた。

「やっぱりさぁ、
 小石さんは大石さんに会うと腹が立つかい?」

僕はどう答えていいものやら分からないままに、
訊き返した。

「はぁ、小遊三師匠は、いないとは思いますけど、
 大遊三という落語家に会ったら腹を立てますか?」

小遊三師匠は何も答えず、
へへへと笑ってビールを飲み干すのだった。

僕はなぜか、この珍問答を忘れられないでいる。

後日、大石さんという女性に会った。
僕は、これ幸いと訊いてみた。

「僕は小石といいますが、大石という姓はどうですか?」

ずいぶんと奇妙な質問だったと思うのだが、

「子供の頃のあだ名は、内蔵助(くらのすけ)でした。
 とっても嫌でした」

大石さんは心底嫌そうに答えてくれた。

大石内蔵助は、何度も映画や
テレビ・ドラマになっている時代劇、
『忠臣蔵』の中心人物である。 
それゆえ、大石さんのあだ名は
内蔵助になってしまったのだろうか。
ある年代の大石さんは、みんな、
「おい、くらのすけ〜」
なんて呼ばれていたに違いない。
大石さんという姓にも、意外な苦労があったのだ。

小石という姓で困ることといえば、

「小石です」

というと、

「小西さんですね」

と、間違われることくらいだ。

エレベーターなどの扉に、
『扉に小石などが挟まれると、
 故障の原因になります。
 ご注意ください』
などと書かれていることがある。
別に困りはしないが、
ついつい自分が扉に挟まれているのを想像したりする。

『大は小を兼ねる』というが、
小が大を兼ねることもあるのではないだろうか。
マジックでいえば、大ネタよりも
小ネタの方が何かと便利である。
師匠である初代・引田天功は怒るかもしれないが、
大ネタという出し物は何かと面倒なのだ。
まず、大金をかけて大道具を作らなければならない。
作ったならば、それを保管する大きな倉庫が必要になる。
更に、その大道具を運ぶ大型の車も必要になる。
なおかつ、捨てる時には粗大ゴミとなり、
またまたお金が必要となるのだ。

それに比べれば、小ネタは割と格安で手に入る。
倉庫も車も必要ではない。
捨てる時は自宅のゴミ箱にポイ。
それでいて、マジックの不思議さは
ネタの大小で違わない。
つまり、コスト・パフォーマンスが格段に良いのである。

言葉にしても、
「小綺麗ですね」
「小洒落てますよね」
「小粋ですねぇ」
など、小が付くだけでいっそう素敵な響きになる。
間違っても、
「大綺麗だね」
「大洒落てますなぁ」
「大粋ですねぇ」
とは言わない。

「ちょっと待った。
 大金持ちの方が、小金持ちより良いだろう」
そんな意見もあるかもしれない。
だが、大金持ちより小金持ちの方が
なんだか自由な気がするし、
大金持ちの方々には失礼ながら、
小金持ちの人の方が善人というイメージを
抱きやすいではないか。

大きな成功には大きな利益が与えられるだろう。
しかし、大きな失敗、大きな負債を抱える危険性を
内包している。
大きな幸福には、大きな落胆が潜んでいるかもしれない。
それに比べ、小さな幸福のささやかな温もりは、
いつまでも冷めそうにないように思える。

等々、我田引水の理論を長々と展開してしまいましたが、
読者の皆さまにはどうか小目、
ではなくて大目に見ていただきますよう、
末筆ながら御願い申し上げます。

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2014-01-19-SUN
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