MAGIC
ライフ・イズ・マジック
種ありの人生と、種なしの人生と。


『芸人病』


僕はおっちょこちょいで、
しょっちゅう怪我をする。
先日も指先をドアに挟んでしまい、血豆ができた。
これがかなり痛かった。
でも、ある朝ふと見ると、すっかり治っていた。
僕は、久々に傷みのない朝を迎えることができて
とても嬉しく、シアワセですらあった。
小さくても大きくても、
怪我や病気はいつか治ることを信じて、
今日もお気楽の一席。
ナポ 「僕が幼稚園生の頃、
 つまりはお坊ちゃまの頃だね。
 賢くて、しかも
 健康優良児だったんだよ。
 で、君のガキの頃はどうだったの?」
レオン 「なんで自分はお坊ちゃまで、
 おいらはガキなんだよ。
 おいらが幼稚園生の頃はね、
 病気気味でね」
ナポ 「病気気味って?」
レオン 「それが奇妙な病気でね。
 気付いたら席を立って
 歩いたリ走ったり、
 園の庭の木の枝を折って回ったり。
 今思い出しても、
 つらい病気だったなぁ」
ナポ 「それって病気じゃなくて、
 ただのヤンチャで落ち着きのない
 イタズラっ子だった
 ということじゃないの」
レオン 「失礼な。
 いわゆる多動性症候群という、
 立派な病気だったと
 思われるのであります」
ナポ 「立派なガキだったということだね。
 で、その後は
 どんなガキだったんだい?」
レオン 「だから、ガキじゃないってば。
 とにかく、
 ずぅ〜っと病気気味が続いてね。
 小学校時代は夏休みとか
 冬休みの宿題を忘れるという、
 突発性の記憶喪失症に悩まされてね、
 わっはっは」
ナポ 「宿題やってこない、
 ダメなガキに成長したわけね」
レオン 「中学時代になると、
 盲腸を切るという
 大手術を経験しました。
 盲腸、つまりは
 ホルモン治療ということです」
ナポ 「違いますっ!
 盲腸だからといって、
 ホルモンじゃありません。
 しかも、ホルモン治療というのは
 盲腸の手術とは
 ぜんぜん関係ありません」
レオン 「高校生になると、
 心臓の痛みに苛まれまして」
ナポ 「どうせ失恋でもして、
 心が痛いとかだろ?」
レオン 「そうそう、
 何度も失恋するうちに
 心臓が傷み出して」
ナポ 「だから、
 それは心臓が傷んだわけじゃないよ。
 ただ、モテなかっただけです」
レオン 「恋愛ロス症候群と診断されました」
ナポ 「なんでも症候群と付けりゃ
 いいってもんじゃないよ」
レオン 「大学時代は、風邪引きまして」
ナポ 「風邪は確かに、病気だね」
レオン 「いやいや、
 風邪引いたのは財布です」
ナポ 「つまりは金欠病ということね」
レオン 「大学出てからも、
 金欠病という恐ろしい病気は
 しばらく続きました。
 お金がないから、
 ビール瓶を拾って歩いたりして
 小銭を稼いでました。
 ある時は、たくさんの空瓶が
 落ちているのを発見し、
 回収しようとしました」
ナポ 「どこで発見したの?」
レオン 「酒屋さんの裏手です」
ナポ 「それは落ちているんじゃなくて、
 置いてあったんだよ。
 それは病気じゃなくて、
 犯罪だよ」
レオン 「一瞬、錯覚したというか
 幻覚症状に陥ったというか。
 ですが、すぐに回復しました。
 めでたし、めでたし」
ナポ 「別にめでたくないです」
レオン 「ところで、
 君はどこか悪くないの?」
ナポ 「そうねぇ、最近、
 マジックをする時に
 手が震えてね」
レオン 「おいらも。
 だから、仕方なく
 ビールを出番前に飲むんだよ。
 そうすると、手の震えが
 ピタっと治まるのですよ」
ナポ 「そりゃ、危険な治療法じゃないの」
レオン 「最近じゃ、
 ビールだけだと震えが止まらなくてね。
 ワインにしたら止まりました。
 それからウイスキーになり
 リキュールになり、
 ジンになりアブサンになり
 ウォッカになり」
ナポ 「それで震えが止まったの?」
レオン 「うん、手の震えは
 ピタっと止まったんだけれど、
 すっかり酔っ払って
 出番を忘れちゃった。
 わっはっは」
ナポ 「どこかに入院しろっ!」

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2013-10-27-SUN
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