MAGIC
ライフ・イズ・マジック
種ありの人生と、種なしの人生と。


『夏の日記』


私は『週刊日記』なるものを書いている。
日々の仕事や出来事などを、ゆるゆるダラダラと
書き綴っている。
夏の陽射しに温まった水のような、なまぬるい日記。

あまりの暑さに節電を諦め、エアコンの風を少し強めて、
今日もユルダラの日記を書き始めるとしよう。

◯月□日

 今週も暑いよ。
 なんだか、毎年だんだんと暑さが増してるような。

 昼間は暑くてウォーキングできず、夜になっても
 蒸し暑さは昼間と変わらないよ。
 だから、最近はまるで歩いてないよ。

 ちょこっと歩いただけで、なんだか熱中症になって
 しまいそうで怖いよ。
 実は以前、熱中症になりかけたことがあったよ。
 暑いのに、運動しなくっちゃと歩いたのですよ。
 しばらく歩いて、なんだかフラフラしてきましたよ。
 それで、何気なく店のウインドウを見たら、
 おいらの顔が赤く映っているではありませんか。

 熱中症になると、顔が赤くなるんだってね。
 まさに、おいらの顔がお酒飲んだみたいに、
 猿みたいに赤いのですよ。
 そいでビックリして、
 慌てて自販機で水を買って飲んだり頭にかけたり。

 タクシーに乗って帰りましたよ。
 なんとも情けないウォーキングでしたよ。


 ◯月□日

 運動の代わりに、しっかり仕事で汗かきましたよ。
 相当汗かいて、なんだか体重減ったみたいだよ。
 仕事ダイエットというべきかぁ?
 でも、その後にビールをゴクゴク。
 更にあれこれ飲んで食べて。

 翌朝、なんだか身体が重いよ。
 お腹もぷっくりしているよ。
 当たり前でーす。


 ◯月□日

 アメリカから東北支援に来てる人たちがいましたよ。
 その人たちにせめてものお礼と、
 おいらのひとりマジックを見てもらいましたよ。
 彼らは日本語は分からないみたいなのに、
 「オモシロイヨ〜!」
 と言ってくれましたよ。
 本当だろうか・・・。

 皆さんと打ち上げしましたよ。
 店は涼しいからいいのだけれど、一歩外に出ると皆さん、
 「ワォウ、ムシアツイヨ〜!」
 確かにね。

 日本は初めての人もいて、
 日本語は少しだけしか理解できない人が多かったですよ。
 そんな彼らの覚えた日本語が、
 「アツイネ〜、ムシアツイネ〜」
 そりゃそうだよね〜。


 ◯月□日

 暑くて運動できないよ。
 このままじゃ、太ってしまうよ。
 そこで、おいらは真剣に考えましたよ。
 で、ひらめいた!
 地下街を歩くことにしましたよ。

 地下街はエアコン効いてて涼しいのですよ。
 しかも電気代はタダですよ。
 新宿の地下街は広いですよ。
 たぶん、駅3つ分くらいの距離はありますよ。
 途中に階段もあるし、
 疲れたら近くのデパートで休めばいいし。

 なんせね、肉体労働マジシャンとしましては、
 肥満が芸に影響するのですよ。
 別に大ネタじゃなくたって、
 太ると芸がダメになりそうな気がするのですよ。
 まぁ、痩せてればマジックがうまいかっていうと、
 そうとは限らないのだけれどね。
 
 というわけで、節電のため芸のため、
 おいらは今日も地下街をウォーキングするのですよ。


 ◯月□日

 今日も暑いですよ。
 昨日よりもっと暑いですよ。
 そりゃぁ夏だから暑いのは当たり前だけれど、
 なんだか、年々暑さが厳しくなるような気がするよ。

 そんな暑い中、とある駅前で開催される
 夏祭りに出演したよ。
 今までも野外のイベントに出演してきたけれど、
 今年は暑さが別格だよ。
 なんつーか、蒸し暑さがすごいよ。

 でも、妙に虫が少ないのですよ。
 ちょい前の夏だと、明かりに誘われた虫が多くてね。
 それがうっとうしかったけれど、
 ちょっとした昆虫観察できたりして。
 ステージ上なのに、しゃべりも忘れて、
 「あれぇ、この虫、なんていうのだろう?」
 なんて、見入ったりして。

 最近の夏は、虫が少ないのですよ。
 蜂も、相変わらず見かけないよ。
 みんな、どうしてるんだろう。

 まぁね、仕事としてはやりやすいのだけれど。
 以前は、しゃべってても虫が口に入りそうで困ったよ。
 それがさぁ、一切ないもんね。

 雨も、なんだか極端に激しく降るよ。
 大丈夫なのかなぁ、自然。


 ◯月□日

 自然が残った昔のままの川で
 渓流釣りをしましたよ。
 いやはや、楽しい嬉しいでしたよ。
 ますます、将来は清流のそばで
 暮らしたいと思いましたよ。

 そう、おいらの夢は小川のそばに家を建てて、
 2階から釣り糸を垂らして魚釣りをすることなのですよ。
 以前に、山奥の町に仕事に行きましたよ。
 そしたら、途中に小さな家があってね。
 そこのおじさんが2階から
 釣り糸を垂らしていたのですよ。

 その光景が、忘れられないのですよ。
 そんなぐうたらな釣りって、ダメだと思うし、
 きっとそんなに釣れないと思うよ。
 でもねぇ、そりゃもう幸せな光景だったのですよ。

 仕事であちこちに行くよ。
 きれいな川も、まだまだ多いよ。
 でもね、誰も釣りしてないのですよ。
 ほんのひとり、ふたり、鮎かなんかを釣ってるだけだよ。
 聞いたら、今の子供たちって、
 釣りなんか嫌いなんだって。
 面倒くさいんだって。
 それより、ゲーム機で遊ぶ方が楽しいって。

 釣りの時、釣り竿に釣り糸を結ぶ方法があるよ。
 これがさ、簡単に結べて、外す時は一瞬なんですよ。
 で、またすぐに結べる。
 この結び方は、親戚のおじさんに教わったのですよ。

 川のせせらぎを聞きながら、教えてくれたおじさんの
 顔を思い出しながら、釣り糸を結ぶのですよ。
 川面に釣り糸を投げ入れると、
 もう亡くなったおじさんの声が聞こえてくるようですよ。

 「よぉし、うまいぞ。
  ほら、もう引いてるぞ」

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2013-08-11-SUN
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