MAGIC
ライフ・イズ・マジック
種ありの人生と、種なしの人生と。

私は日々、進化はしていないが
変化はしているようだ。
いつものことを、いつものようにこなして
生活をしていると思っていたが、
最近ふと感じることがある。

『なにかが、起きている』


< 忘れもの >

5泊6日の旅に出た。
久しぶりの長旅だ。
私は大きな鞄にパソコン、その周辺機器、
着替え等を詰め込んだ。

本も3冊、入れた。
コンタクト、いつものサプリメント、
いつも飲むリキュールも鞄の底に詰めた。
ずいぶんと重くなった鞄を転がして、
新幹線に乗った。

夕方には指定のホテルにチェックインし、鞄を開けた。
すると、ステージ用の衣装が入っていないではないか。
忘れたのだ。
どうやら、下着のパンツも入っていないようだ。
肌着もシャツも靴下も入っているのに、
パンツは入れ忘れたらしい。
パソコン周りは完璧なのに、腰の周りは裸のよう。

フロントで最寄りのデパートを教えてもらい、
なるべく派手なスーツと地味な下着を買って事なきを得た。
それにしても、下着はともかく
肝心なステージ衣装を忘れるとは。
私は私自身に大いに不信感を覚えた。
最近、私の中でなにかが起きている。


< 蓋 >

いつもの美容室に着いた。
まずは用足しをとトイレに入った。
蓋を開けようとするが、それらしいボタンはなさそうだ。
ドアを開けて、若い女性スタッフに訊いてみた。
「あぁ、あの、手で開けてください」
最近は入ると勝手に蓋が開いたり、
ボタンを押して開けるものが増えたが、これは違うのか。

そうそう、以前にも蕎麦屋さんの引き戸の前で
立ち尽くしていたことがあったっけ。
自動ドアだと思い込んでいたのだ。

なんでも自動と思い込んじゃダメだなぁと、
手でトイレの蓋を持ち上げた。
すると、蓋はガッタンと外れ落ちてしまったではないか。
私は慌てて元に戻そうとしたが、
再び大きな音をたてて外れてしまった。

「小石さん、大丈夫ですか? 小石さん」
スタッフの女の子の声が聞こえてきた。
私は仕方なくドアを開け、
「蓋がさぁ、外れてね、戻らない」
女の子はウフフと笑って、
「あぁ、よかった。
 小石さん、倒れたかと思いました。
 蓋は、掃除しやすいように簡単に取れるんですよ。
 後で直しておきますから、シャンプー席へどうぞ」

シャンプーが始まった頃、私はふと気付いた。
「うぅぅぅ、まだ用足しは済んでなかった」
私の中で、なにかが起きている。


< 洗脳 >

あるマジシャンがインタビューを受けている。
話の中身といえば、
「おいおい、本当なのかい?」
などと疑問符が浮かぶ事柄ばかりだ。
大言壮語、ホラとしか思えない話ばかりだ。

だが、マジシャンの表情を見ていると、
「いやいや、本当かもなぁ」
と思い直す。
語っている顔は、とても嘘をついているようには
思えないのだ。

事情通が解説してくれた。
「あれはね、マネージャーが優秀でね。
 あれこれのウソを、
 さも本当であるかのようにマジシャンに
 伝えてるんだよ。
 マジシャンはマネージャーを信用しているから、
 すべてを真実と思って疑わないのだよ。
 つまり、マジシャン自身が
 真実だと心底思って話している。
 だから、本当の話のように聞こえるのだよ」

以前はすぐに嘘とバレていたのに、
これを進歩と言っていいものか。
あのマジシャンの中で、きっとなにかが起きている。


< アナウンス >

車内アナウンスを聞いた。
「線路に物を置いたり、電車に石を投げるのは
 大変に危険ですので、お止めください。
 また、不振な人、あるいは物を発見した場合は
 乗員または駅員にお知らせください」

私は思った。
線路に物を置いたり電車に石を投げようとする輩が、
このアナウンスを聞いて、
「そうかぁ、危険なのかぁ。
 じゃ、止めよう」
などと思いとどまるものだろうか。

それに、不審な乗員あるいは駅員を発見した場合、
誰に知らせればいいのだろうか。

なんだか最近、私は妙なことが気にかかる。
私の中で、なにかが起きている。

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2013-04-14-SUN
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