MAGIC
ライフ・イズ・マジック
種ありの人生と、種なしの人生と。


『めでたい日々』

子供の頃、元旦に家族写真を撮った記憶がある。
昔のことなので、ふたりの姉は着物姿だったと思う。
ふたりの着飾って晴れやかな笑顔の横に、
私はパジャマ姿で気分悪そうに写っている。
子供の頃の正月の写真といえば、そんな写真ばかりだ。

大晦日に休みなく飲み、食べしたせいだ。
普段は遅くまで起きていないのに、
大晦日は深夜まで起きて飲み食べを続け、
アルコールなど一切飲んでいないにもかかわらず
元旦にはすっかり二日酔いのような症状に
なってしまうのだった。

2013年の正月、私はすっかり大人になっていた。
パジャマ姿であるのは子供時分と変わらないが、
ワインなどをしこたま呑んだにもかかわらず、
気分上々の元旦を迎えられた。
大人になるのも悪くないものだ。

大人になり、マジシャンとなって元気に年を越せたのだが、
マジシャンは正月も仕事をしなければならない。

「あ〜ぁ、マジシャンはつらいよ。
 みんな、正月は休みで呑んだり食べたりし放題。
 それなのに、おいらはカバン抱えて仕事だよ、あ〜ぁ」

ぼやきつつ、冷えた空気のなかを羽田に向かった。
行く先は松山空港、空港近くにあるショッピングモールの
初売りイベントに出演することになったのだ。
羽田はかなりの人出だった。
どうやら、正月といえども働いているのは
マジシャンだけではなさそうだ。

飛行機に乗り、しばらくして朝ごはんが運ばれてきた。
2013年初の機内食である。
12センチ四方の黒い箱と、
大きめの紙コップが運ばれてきた。
紙コップには鯛雑炊、それに別添えの海老、三つ葉、
小ネギを加える。
黒い箱には鰆(さわら)の味噌だれ焼き、
さつまいもの甘露煮、かぶの甘酢漬け、出汁巻き玉子。

あれれ、これは昨年、12月にも出てきた機内食ではないか。
私は思わず、

「去年と同じかぁ」

イヤホンで音楽を聴いていたので声が大きくなり、
CAさんが振り返って苦笑いをしていた。
それでも、濃いめの鯛雑炊、濃厚な鰆、甘いさつまいも、
酸っぱいかぶが美味しい。

飛行機は松山空港に到着、
車でショッピングモールに向かった。
相当に広い通路なのに、人が溢れている。
初売りセールの店頭には、長い行列ができている。

イベントホールにも人がいっぱい来てくれた。
席はすべて埋まり、その外側を立ち見の人々が囲んでいる。
こうなるとマジックショーは
開演前から成功したようなもので、
ちょっとしたマジックにも反応が熱い。

午前中のショーが終了、どこかのレストランで
ランチを食べる予定だったのだが、

「どうもねぇ、どこのレストランも人だらけで‥‥」

スタッフの方が牛丼弁当を買って
控え室に持ってきてくれた。
2013年初仕事の昼食は牛丼弁当、
これが汁ダク、半熟玉子付きで美味しかった。

翌日の昼、家で雑煮を食べていた。
テレビでは『東西寄席中継』をやっている。
実は、この番組の後半に生出演することになっている。
出演する番組がもう始まっているのに、
私は家で雑煮を食べている。
なんとも不思議な気分になる。

「皆さま、新年明けまして、以下同文です。
 さて、まずは正月にふさわしいマジックを」

そんな挨拶の後、
白いボールが出現して床に落ちるマジック。

「あっ、ボールが落ちました。
 落とし玉、お年玉〜」

今年の干支に因んだマジックとして鉄アレイを出現させ、

「鉄アレイは重い。
 重いを英語でヘビー、へび〜」

最後は代表作、あったま・ぐるぐる。
初高座も無事にめでたく終了するのであった。

夕方、いつもお招きいただいているお宅に向かう。
2013年幕開けの新年会である。

「では、カンパ〜イ」

まずはシャンパン、ロゼで乾杯をする。
もう十年来お招きいただいていて、
豪華なお節を遠慮なくいただいている。
乾杯しつつ、ご厚情に心から感謝する。

ベトナム風生春巻きがたくさん並べられている。
さっぱりとした野菜の歯触り、ピリ辛のソースが美味い。
お節には付き物の数の子や黒豆の横に、
オレンジソースがかかった合鴨のローストが見える。

「淡路島のナマコはねぇ、
 なぜか大きいのと小さいのがあるよ。
 味は変わらないと思いますよ」

銀ダラ西京漬け、小鯛の笹漬けが、
越後の名酒と合うのなんのって。
なんと一升瓶の半分以上を呑んでしまう。

メロンに生ハムが乗ったのをロゼで、
カラスミは日本酒とともにいただく。
涙もろい私、有り難くて涙が出そうだ。

「松茸をね、少しだけ入れてみました」

海老芋と松茸の椀が出てきた。
涙が引っ込んでヨダレが出てきた。
海老フライはタルタルで、ローストビーフはワサビ醤油で。

「いつものより、大きなあげにしてみました」

真打ち登場、お稲荷さんが大皿に乗って
やってまいりました。
汁が沁みたあげとふっくら炊けたごはんつぶとの
相性の良さ。
これを嫌いな人などいるだろうか。

というわけで、今年の正月もほぼ例年通りの
有り難い日々でありました。
マジックのネタも相変わらずだったけれど、
お客さまのホッとしたような笑顔を見ることもできました。
めでたし、めでたし。

『 脱皮など しないと誓う 年初め 』

このページへの感想などは、メールの表題に
「マジックを読んで」と書いて、
postman@1101.comに送ってください。

2013-01-13-SUN
BACK
戻る