MAGIC
ライフ・イズ・マジック
種ありの人生と、種なしの人生と。


『2013年の誓い』

私は、今年こそ
日本マジック協会の会長になろうと思う。
会長になって、マジック界を大いに活性化させるのだ。

私が協会に入った頃の会長選挙は面白かった。
それまでまるで無縁だった立候補者から
急に飲み会に誘われ、たっぷりとご馳走になる。
更に、選挙当日には立候補者から弁当が配られる。
そりゃもう、実に分かりやすい選挙戦略なのであった。

選挙直前に、急に弟子の数が増える候補者もいた。
弟子も1票を投じることができるので、親戚、知人、
旧知の居酒屋のおじさんまでもがにわか弟子、1票となる。
さすがにこの弟子増員作戦は後に禁止となったが。

会長になって何がいいのかといえば、
肩書きでお金が稼げるのだ。
会長になれば、日本全国のアマチュア・マジシャンに
指導することができる。
誰だって指導はできるのだが、アマチュアの皆さんだって
肩書きには弱いのだ。

「私はねぇ、日本マジック協会の会長にマジックを
 教わってるからねぇ、えっへん」

マジックを指導しながら全国を巡る。
ちょっとだけ教えておいて、
毎晩のように酒席を催していただく。

「ままま、会長、おひとつ。
 さすが会長のご指導、見事なものでございますなぁ」

アマチュアの皆さんから指導料をいただきつつ、
ご馳走にもなる。
これを我が業界では『アマ下り』と称している。

話は矛盾するのだが、
私は役職があるからいけないと思う。

協会理事、理事長、書記、書記長、幹部など
様々な役職があり、平会員の下にも
順会員という職まである。
マジックが苦手の人でも、長年協会員でありさえすれば
師範という役職にも就けるのだ。

政治の世界も、ナントカ委員長、幹事長、副大臣、大臣、
副総理、総理大臣と、数多の役職が設けられている。
それゆえ、人間は出世欲にまみれてしまうのだ。

役職がなければ、人々は出世欲など持たないだろう。

ゆえに、役職はただひとつ『◯◯係り』でいい。
総理大臣だって『総理係り』、マジック協会会長も
ただの『マジック係り』でいいではないか。
これぞ皆さん平等、職業に貴賎なしの理想社会であろう。

現実はそう簡単に変化しないので、
まずは私が会長となって
ひとつひとつ役職を減らしてゆくことを
お誓い申し上げる次第でございます。

また、私は今年、初心に帰ろうと決意している。
そのため、左手に箸を持ってごはんを食べます。

元々、私は左利きなのだが、
幼い頃から右手に箸を持って食べるよう
矯正させられたのだ。

右手で食べるのに一切の違和感も不満もないのだが、
今年は心機一転、本来の左利き、
左手で箸を持とうと決意したのだ。

左手でも、それほど食べづらくはない。
若干おぼつかないところもあるのだが、
ごく普通に小さい豆も箸でつかんで食べられる。

左手で食べていると、幼い頃、父や母、
祖父や祖母に教えられて箸を使った頃を思い出す。
幼い日々がよみがえり、育ててくれた父母、祖父母に
感謝の想いをあらためて抱く。

あの頃、小さい手に箸を持ち、
ごはんをこぼしながらも真剣な顔をして
食べていたことだろう。
父母、祖父母たちが、
「ほれほれ、箸はこう持って。
 ほれ、人差し指、この指をこう使って」
などと、何度も何度も教えてくれたのだろう。

当然ながら肩書きもない、ただのぼんやりした子供。
箸使いもおぼつかない半人前、否、四分の一人前の子供。
それがいつの間にか、一人前になったように生きている。
家族への感謝も忘れがちになり、
ひとりで育ったように生きている。

これではいけないと思う。
新たな成長を期すにも、初心に帰るべきなのである。
私は新春のお節、雑煮も左手で食べる。
ポロリポロリとこぼして服にシミを作ろうとも、
これも新たな成長の足跡となるに違いない。

さて、今年の初仕事は寄席中継番組への出演である。
ディレクターは、今年の干支に因んだマジックを
リクエストしている。
そこで私は考えた。

空の箱から、なぜか3kgの鉄アレイが出現する。

「うひゃぁ、重いなぁ、鉄アレイ。
 で、なんでこれが今年の干支に因んだものなの?」

「重いでしょ。重いっていうのを英語で言うと?」

「ヘビィ、へび〜!」

どうぞ本年も『ライフ・イズ・マジック』をよろしく
ごひいきのほど、お願い申し上げます。

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2013-01-06-SUN
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