MAGIC
ライフ・イズ・マジック
種ありの人生と、種なしの人生と。


『自分を演出する方法』

ランス・バートンは、
米国ラスベガスに自分の名を冠した劇場を持ち、
長年に渡って公演し続けたマジシャンだ。
米国で最も成功したマジシャンのひとりに数えられている。

彼の成功のスタートは、
マジックの世界コンテストで
見事に優勝したことから始まったと言われている。

スイスで開催された大会で、
世界中から集まった精鋭のマジシャンたち、
下馬評の高かったマジシャンたちを破り、
堂々のグランプリを獲得したのだ。

米国のショー・ビジネス専門誌に、
ランス・バートンのインタビュー記事が掲載された。
写真に写っているランスは、
巨大な優勝トロフィーを誇らしげに掲げ、
満面の笑みを浮かべている。

私はその記事を読み、友人である彼の成功を喜んだ。

ランス・バートンは、彼の上半身くらいはあろうかという
大きなトロフィーを抱いている。
そのトロフィーを見て、私はふと疑問に思った。
トロフィーが大き過ぎるのだ。

マジックの世界コンテストには、私も多く参加している。
入賞者に与えられるトロフィーも実際に見たことがある。
部門別の3位に入賞したこともあり、
トロフィーもいただいた。
そのトロフィーの小さいこと。
おそらく15cmくらいの高さくらいの、何とも地味で、
棚に置けば一輪挿しに間違えられそうなものだった。

残念ながら、私はグランプリはいただけなかったが、
優勝者に与えられるトロフィーは持たせてもらった。
グランプリに与えられるトロフィーも、
それほど大きくはなかった。

だが、写真の中のランスは巨大なトロフィーを抱いている。
私は大いに疑問を持ち、
マジック業界に詳しい人に訊いてみた。
長老は別に意外とも思っていなかったようで、

「あぁ、あれはね、
 アメリカで買ったトロフィーを持って写っているんだよ。
 だってさ、本当にもらったトロフィーは小さいだろ?
 仮にも世界チャンピオンになったんだよ。
 それが、あの小さいトロフィーじゃおかしいでしょう。
 あれじゃぁ、どこか町内のカラオケ大会で優勝した方が
 大きいトロフィーをもらえるってもんだよ。
 それでね、ランスのマネージャーたちが
 考えたのだろうね。
 ランスの偉業にふさわしい、
 大きなトロフィーを抱かせるべきだってね」

そうだったのか。
マジックの世界チャンピオンには、
あれくらい大きなトロフィーでないといけないのだ。
決してインチキとか過剰な演出ではない。
確かにトロフィーはニセモノでも、
ランス・バートンの偉業は真実そのものなのだから。

私は思った。
もし、ランスが正直に
あの小さなトロフィーを持って写真に写っていたら、
後のあの成功はなかったかもしれない。
写真から受ける印象は大きいものだ。
小さなトロフィーでは、小さな成功にしか
見えなかったかもしれないのだ。

長老は続けて、

「だからさ、君もそうするべきなんだよ。
 まぁ、3位でも4位でも、
 入賞してトロフィーをもらったんだから、
 それにふさわしい大きなトロフィーを飾るべきなんだよ。
 どこか、トロフィーを売ってるところ、あるでしょ。
 なんでも良いんだよ、上にゴルフ・ボールが付いてても
 ボーリングの玉が乗っかってても、
 大きけりゃ良いんだよ。
 誰も、
 『なんでゴルフのボールなの?』
 なんて思わないよ、はははは」

ううむ、ところどころ頷けない部分はあるものの、
長老の言うことはいつもながら深いのであった。

ラスベガスに行った時、面白いものを発見した。
新聞に、自分の名前を入れて印刷してくれるという商売だ。
『ラスベガスに日本で No.1のマジシャン、
 ミスター小石が登場』
というような英文や写真を掲載してくれる。
確か、新聞1部あたり5ドルくらいだったと思う。

新聞の1面に自分の写真や名前がデカデカと載るのだが、
後に続く記事は私とはまるで関係のないものばかりだ。
つまりは、ごく普通の新聞のヘッド・ラインだけを
客の好きなように書き換えて印刷してくれるという
商売なのだ。
英語があまり分からない友人知人に見せると、
本物の新聞と信じて、
「へぇ〜、新聞に載ったんだねぇ、すごいじゃん」
などと感心しきりになる。

一緒にラスベガスに行ったマジシャンたちが新聞を見て、

「なんで小石だけ載ってるんだ。
 自分だけ売り込むなんてずるいじゃないか」

などと怒られてしまい、

「実はホテルの近くでこんな新聞を作ってくれる商売を
 やってるんだよ。
 みんなも自分の名前を入れて作りなよ。
 それを日本で見せれば、
 ラスベガスの新聞に載るほどの
 大物マジシャンと思ってもらえるよ」

そう説明すると、皆一斉に店に向かって駆け出した。

ランス・バートンのトロフィーに比べれば、
相当にインチキな演出ではあるが、
自己演出の面白い方法だと思う。

ある芸人さんは、
地方の新聞に載った自分の記事を切り抜き、
メジャーな新聞の適当なところに貼ってコピーをする。
それを関係者に配って自分の宣伝活動にしていた。

あまりメジャーじゃない新聞に載った記事が、
あたかも大新聞に載ったように見えてしまう。
誰も疑わず、

「へぇ〜、◯◯新聞に載るなんて、一流の明かしだねぇ」

見事、芸人さんの作戦は大成功となる。
こうなると、面白い自己演出を通り越して
詐称と言われかねないが。

私は今、秘かに計画を立てている。
まず、どこか外国の小規模なマジック・コンテストに出て
優勝する。
大きなトロフィーを買い、それを抱いて写真を撮る。
ラスベガスでその写真と、
『 Mr.KOISHI WORLD GRAND PRIX !』
などと書かれた新聞を作ってもらう。
そいつを日本に持ち帰り、小さな新聞記事にしてもらう。
その記事を大新聞に貼付けてコピーする。

私はすごいマジシャンであると誤認され、
ついには大スポンサーが付いて、
私の名前を冠した劇場を造ってくれる。
私は多くの美人アシスタントとともに
マジック・ショーを制作、主演となる。
公演は大好評のうちにロング・ランとなり、
ついにはお城のような大きな家を建てるのだ。

小さな部屋で、私の妄想は無限大に膨らんでいる。

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2012-11-11-SUN
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