MAGIC
ライフ・イズ・マジック
種ありの人生と、種なしの人生と。

『畑の満漢全席』

お正月も半ば過ぎて、
友人の古里で毎年やっているという
恒例の餅つきに招かれた。

朝8時、時間ぴったりに迎えの車がやってきた。
後部座席には、彼の会社の同僚や友人たちがいた。
餅つきに毎年のように参加している人もいれば、
私のように初めての人もいた。
あと15人ほどの友人知人が、それぞれの車に分乗して
彼の古里に向かっているという。

途中のサービスエリアで合流し、友人知人と話したり、
初めての人と対面したりした。
以前から参加している人たちは
昨年の楽しさを思い出して笑い合っていた。
初めての参加する私たちは、
これから始まろうとしている楽しそうなイベントに、
あれこれ想像を巡らし合った。

古里に向かうルート等を確認し合い、
車列は再び高速を走り出した。
景色はだんだんと田んぼや畑になり、車に付き添う
ようにトンビが空高く飛んでいる。
「小石さんの古里もこんな感じですか?」
そう聞かれて、今年も正月に帰れなかった古里を想った。

車は高速を降り、細い道に入った。
もうすぐ、友人の親戚の家に到着するらしい。

もう何台か、先に到着した車が庭に停められている。
だが、庭はまだ広い。
車を停めると、運転席の近くにおじさんが来た。
聞くまでもない、顔立ちで友人の父親と分かる。
「おう、無事だったか」
父親の表情は変わらないように思えるが、元気な
息子の顔を見た嬉しさを噛み締めるような顔になった。

天井が高く広い納屋に臼があり、
すでに餅つきは始まっていた。
父親と甥っ子が、交代しつつ杵を振り下ろしている。
時々餅をひっくり返すのは、友人のおじさんおばさんだ。

私は子供の頃を思い出し、杵を借りてつき出した。
あの頃はまだお祖父さんもいたっけなぁ。
お祖母さんもいて、私が杵を持って
フラフラしているのを見てたっけ。

ぺったんぺったん、餅はつく度につやつやとなる。
つき上がった餅が台に乗せられ、
粉をまぶしつつ伸ばされていく。
私は子供の頃と同じように、臼の底に残った餅を
手ですくって食べてみた。
うまい、美味しい、ほのかに甘い。
臼はまるでタイムマシーンのように
私を子供の頃に運んでいく。

「餅ついたら、畑に行って大根やら白菜やら、
 穫ってもらうから」
友人の母親に連れられて、すぐ近くの畑に行った。
大根は少しだけ畝から顔を出していて、
太さを確かめて抜いていく。
白菜は包丁で根元を切り、
霜よけに縛られた藁ひもをほどく。
里芋は親芋を傷つけないよう、用心深く鍬を入れる。
ほうれん草は地中にザクザクと鎌を入れる。

穫りたての白菜はほぼ丸ごと鍋に入れ、葉ごとに豚肉と
ベーコンを挟む。
だし汁を加え、石油ストーブの上で煮る。
里芋は、ちょっと辛いキムチスープで煮る。
ほうれん草はツナと混ぜ、カレーパウダーを加えて炒める。
カブはホワイトクリームと粒マスタードのスープ鍋。
人参はバジルソースとチーズでくたくたに煮込まれ、
オリーブオイルがからまっている。
玉ネギと太いネギが入って、昆布の旨味がこれでもかの
汁の中に、さっきついたばかりの餅を入れて食べる。
いくらでも食べてしまいそうだ。

私の腹はいっぱいなのだが、
おろしポン酢をかけて餅を食っている輩を見つけ、
おろしとポン酢を奪い取った。
餅をからませて食べた。
大根の辛さとポン酢の酸っぱさが、
餅を挟んでじゃん拳をしている。
どっちも負けずの好勝負、あいこでショイ。

「餅はすぐ消化すっけど、
 腹ごなしに近所の古墳を見に行くかい?」
小さい山のように見える古墳が、いくつも点在している。
枯れた芝の上に落ち葉が降り積もり、
そこをザクザクと滑るように歩いた。
後ろを見ると、私の歩いた後が
2本の枯れ葉の川のようになった。

帰ると、皆がストーブの上の網でネギを焼いていた。
太いネギがジュウジュウと焼かれ、
それを生姜醤油につけて食べる。
甘みが生姜醤油にからみ、
噛む度に熱い汁がじゅわり喉を焼いて、
空っ風に冷えた体が一気に温まった。

同時に、あれほど食べた胃袋に余裕ができたように思う。
再び汁を椀に入れ、あぶった餅を入れて食べる。
とろけそうになったキムチスープの里芋を食べる。
カブのホワイトクリームと粒マスタードのスープは
チーズがトッピングされていて、
あまりのうまさにお玉を奪っておかわりをする。

温かくて、嬉しい。
有り難くて、うまい。
美味しくて、幸福。

誰かが言った。
「こりゃぁ、畑の満漢全席っすねぇ!」

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2012-01-22-SUN
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