MAGIC
ライフ・イズ・マジック
種ありの人生と、種なしの人生と。

『風ニモマケズ』

寒さ対策に、防風パンツなるものを買った。
内側は暖かさを感じられ、
外生地は風を完全にシャットアウトするとあり、
実に頼もしい限りである。
さっそく着用して初詣に出かけた。
確かに暖かいのだが、
腰の辺りはちょっとスースーするような気がした。
家に帰り、
「風をシャットアウトなんていってるけど、
 そうでもないなぁ」
そう思いつつ脱ごうとして気付いた。
なんと、前のジッパーが全開だったのだ。
全開の窓から風が入り込んでスースー、
恥ずかしいやら情けないやら。
神様、どうか私の無礼をお許しください。

新年会で酔っ払っていた。
「ドナルド・キーン博士はねぇ・・・」
と、私は熱弁をふるっていた。
しかし、皆は困惑の表情を浮かべるばかり。
無理もない、私はドナルド・キーン博士と
言っているつもりで、
「キラー・カーン博士はねぇ・・・」
元プロレスラーの名前を連呼していたのだった。

年は新たまっても、人はなかなか改まらないらしい。
だが、そんなお間抜け年男でも新年は穏やかに過ぎて。

やれやれ、今日も無事に終わってなによりだ。
年明けて、今年もあちこちに出させてもらった。
相方が、
「何か正月らしいネタをひとつ、考えてくれよ」
しょうがない、考えましたよ。

白いボールを次々と空中から取り出す。
だが、そのボールがマジシャンの手から
ポトリと落ちてしまう。
そこですかさず、
「あっ、玉が落ちた。お年玉」
まぁ、なんとかウケましたよ、へへへ。
ない知恵でも絞ればなんとかなるもんですよ。

そんなことを思い出しながら
帰りの電車に揺られていると、
早いもので乗換駅に着いた。
ここで乗り換えて家に着いて、ちょっと早いけれど
ビールをいただこうと考えた。
家に帰ったら、溜まった古い新聞を読む。
私は、なぜか当日の新聞より古い新聞を読む方が好きだ。
古い新聞の記事は、テレビとかで
見知っているニュースばかりだ。
それをもう一度新聞で読んで、
「ははぁ〜ん、やっぱりねぇ」
などと再確認する。
その方が冷静に、俯瞰で見られるような気がするのだ。
それでも、たまに、
「えぇっ、こんなことがあそこで起きてんの?
 こりゃぁ大変だぁ」
起き上がって慌てたりする。
よく見れば3、4日前の新聞記事、出来事で、
「なんだよ、もうとっくに終わってる事件かぁ。
 びっくりして損した」
なんてこともある。
テレビ欄を見て、
「この番組、見たいと思ってたんだ。
 予約しなくっちゃ」
ビデオの電源入れた後、
「そうだった、これはもう3、4日前のテレビ欄だ。
 放送はとっくに終わってる、はぁ〜」
なんて嘆息する。
そんな風に過ごしていると、
また出かけようという気力など
なくなってしまうことだろう。

私は長々と、乗換駅で立ち止まって考えていた。
正月に誓ったことがある。
「今年こそは、毎日1万歩歩いてみせます!」
それが年明け数日で早くも挫折してしまうとは、
いくらなんでもあきらめが早過ぎるではないか。

「よし、ここから家まで歩いてしまおう」
私は強い決意とともに歩き出した。
途中で、近所のおじさんに出くわした。
おじさんはしょぼくれた顔で、
「電車賃でも節約しようと思ってね、
 歩いてるんだよ」
そう言いながら私を見つめ、
「あんたもお気楽な顔してるけれど、
 大変なんだねぇ」
「いやいや、私は節約が目的ではなくて・・・」
おじさんは私の話を聞かず行ってしまった。

「まぁ、いいさ。今年もあれこれあるだろうけれど、
 前を見てしっかり歩けばいいさ」
私は自分に言い聞かせながら、再び歩き出した。
はて、歩数は何歩になっただろうか。

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2012-01-15-SUN
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